光害問題と星空環境
地球温暖化は、地球全体を覆うグローバルな問題ですが、 それ以外にも大気汚染や水質汚濁など、ローカルな問題を日本は抱えています。
星空を見たり、撮影する天文ファンにとって関心の深い環境問題は、光害(こうがい・ひかりがい)問題です。 特に日本は光害大国とも言われ、欧米の先進国と比べても、星空は非常に劣悪な環境に置かれています。 報道ではほとんど取り上げられない光害問題ですが、エネルギー資源の有効活用の上でも、 今後改善すべき問題だと考えています。
光害とは
光害は公害の一種で、都市部の光などによって、星空が見えなくなってしまう現象を言います。 先進国の都市部は人口が密集し、非常に悪い環境になっており、 特に日本は国際的に光害の多い国と知られています。 そのため、日本の都市部では、ほとんど星の見えない夜空となっています。
光害の原因となる人工光は、一般家庭、店舗、ビルディング、工場、街灯から生み出されています。 生活に必要な光もありますが、一晩中明るく照らされる広告の照明等、不要な光も多数存在しています。 中でも大きな問題とされているのは、広告のための回転式サーチライト照明です。 上空を直接照らす光は夜空への影響が大きく、日本以外の先進国では禁止されています。
また、高速道路の照明も光害の大きな原因となっています。 特に案内表示を下から照らすライトは、光が強烈な上、表示板から漏れた光が夜空を直接照らしています。 高速道路は都市部だけでなく、山間部も通過しているため、 郊外の美しい星空環境に直接影響を与えています。
生態系への影響
光害の広がりにつれ、星空だけでなく生態系へも影響が出ていると考えられています。 これは、地球の自転や公転によって作り出される昼と夜、日の長さの差に対応してきた動植物が、 照明によってそのリズムを崩されているというものです。
実際、養豚場などで家畜の異常行動が報告されたこともあるようで、光害の一つの波及問題と 考えられています。その他にも夜行性の狸の居住区域の現象や、農産物の生産量の悪化がよく言われています。 また、私達人間の精神不安も巻き起こす原因の一つとも考える人がいます。
エネルギー資源の無駄遣い
過剰な照明が夜空に漏れることは、電気エネルギーをはじめとしたエネルギー資源の無駄遣いとも 考えられます。特に日本の都市部は諸外国と比べるとむやみに明るく、一年間に無駄になるエネルギーは 数千億円とも言われています。
この日本の都市部の異常な明るさは、海外の主要都市に行けばすぐにわかることで、私も身をもって感じています。 薄暗い海外の都市と比べて、日本は都市部ならどこに行っても昼間のように明るく、安心して行動できます。 これは防犯面では優れていると考えられていますが、明るければ犯罪が減るかと言えば、逆に増えるという 試算もあり、一概に明るければよいと言えません。
また家庭の照明も、日本の家庭は明るさにこだわる傾向があると感じています。 白色の照明を好んで使い、昼光下で過ごすのを好みます。それに比べると欧米諸国の家庭は薄暗く、現代の 日本人からは薄気味悪さも感じます。しかし、この薄暗い環境の方が、精神的に落ち着くのではないでしょうか。
政府の対策
環境省が平成10年に光害対策ガイドラインを作成し、平成18年に改訂版を公表しています。 また1988年からは、環境省主催で全国星空継続観察が夏と冬に行われています。 これは一般市民参加型の事業で、肉眼や双眼鏡を使って星空を観察することで、一般の方の光害への理解度アップを 狙ったイベントです。
全国の自治体でも、サーチライトを禁止する条例などが可決施行されています。 県としてサーチライトを規制しているのは、岡山県、佐賀県、熊本県があります。 その他、岡山県美星町では、1989年に光害防止条例が制定され、天文ファンに 有名になりました。
こうした対策はとられているものの、光害の一般への理解度は低いのが実状です。 政府の対応も後手に回っていると言わざるを得ません。 また経済効果に繋がりにくいためメディアも諸手を挙げて報道したくないというのが本音でしょう。
星空への関心の高まりと共に
日本一の星空ナイトツアーで有名になった長野県阿智村をはじめ、 星空の美しさをキャッチフレーズとして、観光客を誘致する自治体や団体が増えてきました。 私の住む兵庫県でも、若杉高原おおやキャンプ場が星空ハイキングを実施しています。
また、星空写真がネイチャーフォトの一分野として広く認知され、 風景写真ファンをはじめ、多くの人が星空写真の撮影に興味を持ったり、 実際に撮影するようになりました。
星空への関心が高まると共に、各地で貴重な星空環境を見直そうという動きが出てきています。 こうした声がより高まれば、日本全体の星空環境の改善に繋がるでしょう。 私もホームページやメディアを通じて訴えかけていければと思っています。