画像処理技術と方法
画像処理はアナログの時代から行われていましたが、デジタルが全盛になり、画像処理はより身近になりました。 私たちが使っている液晶モニターやデジタルカメラにとって、デジタル画像処理技術は、欠くことのできない技術です。
現在では、スマートフォンで撮影した写真をアプリで加工して、 フェイスブックにアップロードする、といったことも簡単にできるようになりましたが、 これも画像処理の一つです。 ここでは、天体写真を綺麗に仕上げるために必要な画像処理技術についてご紹介します。
デジタルカメラと天体写真
冷却CCDカメラやデジタル一眼レフカメラの登場は、天体写真の世界に大きな変革をもたらしました。 それまで天文台でしか撮影できなかった、遥か遠くの銀河のディテールまでも、 アマチュアの望遠鏡で撮影できるようになったのです。
天体写真の撮影も以前と比べて容易になりました。 銀塩フィルムでは、何十分も露出しなければならなかった暗い天体が、 10分前後の短時間露光で、画面に映し出せるようになったのです。 デジタル機材は、天体写真撮影の普及という点でも貢献しています。
その一方で、デジタル機材になったことで、画像処理が必須となりました。 銀塩フィルム時代は、撮影後、ラボに現像に出せばポジとしてプリントに仕上がりました。 しかし、デジタル一眼レフカメラや冷却CCDカメラで撮影した画像は、 そのままではカラーバランスなどが崩れていて、すぐに印刷することができません。 そのため、ユーザーが撮影だけでなく、画像を一枚の写真プリントに仕上げるまでの処理も行う必要が出てきました。
これは撮影者がすべての工程を管理できる利点はある一方で、カメラマンの負担が増える原因になりました。 その負担を減らそうと、様々なアプリやプラグインソフトが市販されるようになりました。 天体写真の世界でも、星像を小さくしたり、星雲のコントラストを自動的に最適化するプラグインソフトが、 登場しています。
デジタル画像処理は何度でもやり直せる
アナログ時代の画像処理と言えば、現像液の選別に現像時間、ペーパーの選択、焼き付け方法と経験と勘が頼りのものばかりでした。 こうした処理は、途中で行程をミスしてしまうと、せっかくの撮影フィルムを台無しにしてしまう怖さを持っていました。
それに比べると、デジタル画像はハンドリングが良く、パソコンに撮影データーを移せば、すぐに画像処理に移ることができます。 また、元画像を保存しておけば、何度でも前工程に戻って画像の加工を試みることもできます。
また、同じような処理を複数の画像に適用するようプログラムすれば、 出力されるデーターも同じように仕上がります。 この辺りは、毎回勘と経験に頼っていたアナログ時代との大きな差でしょう。 デジタル画像処理は、一般化しやすいため、画像処理の方法も人から人へ説明しやすくなりました。
デジタルカメラの画像処理
星雲や星団の天体撮影には、主にデジタル一眼レフカメラが用いられています。 ネットや雑誌のギャラリーを見ると、デジタル一眼レフカメラで撮影された色鮮やかな星雲や銀河の写真が掲載されていますが、 これらのほとんどは、画像処理を施した天体写真です。
初めてデジタル一眼レフカメラで星雲や銀河を撮影すると、液晶画面に表示された画像の淡さに驚くかもしれません。 デジタルカメラで撮影した天体写真の元画像は、そのままではコントラストが低く、発色も地味で淡いのが普通です。
デジタルカメラの画像処理は、この画像を見栄えのよい、色鮮やかでコントラストの高い画像が目的です。 天体写真の画像処理が初めての方は、すぐに画像のコントラストを上げがちですが、 その前にいくつかの基本的な工程があります。
それらの工程を含めて、左メニューの画像処理の基礎というページでご説明しています。 初めて天体写真の画像処理を試みる方は、まずそちらをご覧下さい。
冷却CCDカメラの画像処理
冷却CCDカメラは、天文台などで使われている産業用のデジタルカメラです。 デジカメに比べて高価ですが、デジタルカメラの撮像素子を冷却することで低ノイズを実現し、 また広いダイナミックレンジを持ったカメラです。
天体撮影によく使用される冷却CCDカメラには、市販のデジカメとは違って、モノクロセンサーが用いられています。 モノクロセンサーは、市販のデジカメに用いられているベイヤー型のRGBセンサーと異なり、 全てのセルが星の光を受光するため、ノイズだけでなく解像度の面でも有利ですが、 カラー画像を得ようと思うと、色の三原色ごとに撮影データーを得る必要があります。
具体的には、冷却CCDカメラにRGB色分解フィルターを取り付け、 RGBごとのデーターを撮影し、パソコン上でRGBカラー合成することで、カラー写真を得ることになります。
この冷却CCDカメラの画像処理の方法について、実践編のモノクロ天体撮影、並びにLRGBカラー撮影のページで説明しています。 冷却CCDカメラの画像処理は複雑ですが、内容についてはなるべく分かりやすく、 ユーモアを交えて書いていますので、気楽にご覧いただければ幸いです。
なお、冷却CCDカメラのページでは、撮影機材の選定方法から、デジタル天体撮影の方法についても触れていますので、 デジタル一眼レフカメラユーザーの方にも参考になる部分があると思います。
ステライメージ7について
ステライメージは、アストロアーツ社が製作・販売している画像処理ソフトウェアです。 天体写真の画像処理に特化したソフトウェアで、 Photoshopをはじめとした一般的な画像処理ソフトウェアでは不可能な処理ができるのが特徴です。
具体的には、ダーク補正やフラット補正といった、天体写真には不可欠な補正が可能です。 これらの処理は、RAW現像前のベイヤー画像に適用することができるため、 画像情報の劣化が最小限にできるというメリットがあります。 また、その他にもデジタル現像処理や画像復元というステライメージならではの処理が可能です。
バージョン6以前のステライメージは、冷却CCDカメラの画像処理ソフトという印象が強かったのですが、 ステライメージ7になってからは、デジタルカメラの画像処理も行いやすくなりました。 天体望遠鏡を使って、星雲や銀河の写真を撮影して画像処理するなら、用意しておきたいソフトの一つだと思います。
Photoshopを用いた画像処理
Photoshop(フォトショップ)は、ピクセル画像を扱うソフトウェアです。 Adobe社のラインナップには、Illustrator(イラストレーター)という描画ソフトもありますが、 こちらはベクトル画像を扱うドロー系のソフトウェアです。
デジタル写真は、ピクセルの集まりで構成されているため、 写真の画像処理にはイラストレーターではなく、フォトショップを用います。 画像処理の工程では、コントラストの強調などの他にも、ぼかしやフィルタなどの処理を行いますが、 このような処理ができるのは、ピクセルごとに演算処理が行えるためです。 私たちが画像処理を行っているとき、ソフトウェアはピクセルごとの値を処理しているわけです。
フォトショップは自由度が高いので、様々な処理が行えますが、 初心者には画像処理の方向性が掴みづらく、わかりづらい点があると思います。 そこで、天体写真の画像処理時によく使用する、 マスクの作成方法などをPhotoshopのマスク作成のページにまとめています。 このページでご紹介しているPhotoshopの画面は、古いバージョンのものですが、 最新のバージョンでも同じように使えるテクニックです。
作者の好みと画像処理
デジタル天体写真の面白いところは、同じ元画像を使っても、作者によって仕上がりが全く異なることです。
色鮮やかな仕上がりが好きな人なら、高彩度で華やかな写真に仕上げたいと思うでしょうし、 銀塩写真のような落ち着いた仕上がりが好む人なら、ナチュラルな作品になるでしょう。 作者の好みが、仕上がりに大きく影響するのも、デジタル天体写真ならではだと思います。
インターネットが全世界で普及して、日本だけでなく海外の天文ファンの作品も簡単に閲覧できるようになりました。 海外の天体写真ファンの作品を見るのは、とても良い刺激になります。 そのような刺激を受けて、天体写真の新しい表現も広がっていくように思います。
画像処理はまず慣れることが第一です。 画像処理の流れが分かってきて、天体写真の処理にある程度慣れてから「なぜそうなるのか?」と考えていけば、 よりよい処理方法を生み出せるのではないでしょうか。 最初から欲張ってしまうと大変です。気長に楽しんでいきましょう。