ポータブル赤道儀と極軸合わせ
ポータブル赤道儀を使って星空を追尾撮影するには、極軸合わせの作業が必要です。 ポータブル赤道儀の極軸合わせには、素通しの穴を用いる方法と、極軸望遠鏡を用いる方法があります。 また、最近、電子極軸望遠鏡のPoleMasterを用いる方法も登場しました。
それぞれの方法によって極軸の設置精度がどの程度変わるのか、ユーザーの気になるところです。 そこで、以上3点の設置方法で極軸を合わせて、 実際に星空を撮影し、撮影画像を比較してみました。
極軸合わせとは
ポータブル赤道儀には、星の日周運動を追尾するための回転テーブルが設けられています。 極軸合わせとは、回転テーブルの中心軸と星の日周運動の中心軸を平行にする作業です。
北半球では、星は、天の北極(およそ北極星の方向)を中心として反時計回りに動きますので、 北極星を目印にして極軸合わせを行います。 具体的には、ポータブル赤道儀に開けられた、素通しののぞき穴や、極軸望遠鏡を使って、 回転軸と天の北極の方向を合わせます。
北極星と天の北極は僅かにずれているため、北極星の天球上の位置は時間と共に変化します。 そのため、正確に極軸を合わせるには、北極星のズレを考慮して合わせる必要があります。 極軸望遠鏡には、そのための導入スケールが付けられていますので、 これに従って極軸を合わせれば、のぞき穴を使ったときよりも精度良く合わせることができます。
しかし、ポータブル赤道儀の極軸望遠鏡のほとんどは、外付け方式です。 製品によっては、赤道儀の回転軸と極軸望遠鏡の向きが合っていない場合もあり、 これは極軸を正確に合わせる際の障害になります。
極軸合わせの方法と精度
極軸合わせの方法によって、星の写り方に差が出るかを調べるため、 ユニテック社のポータブル赤道儀「SWAT-200」に望遠鏡とカメラを搭載し、 実際に星を撮影してみました。
右画像は、今回のテストに使用した機材です。 SWAT-200のターンテーブルに、ダブル雲台ベースとテーパーキャッチャーを取り付け、 そこにPole Masterを取り付けました。
テスト撮影の望遠鏡として、タカハシGT-40望遠鏡(焦点距離240mm)をダブル雲台ベースの片側に固定し、 接眼部にSBIG製のST-iカメラを取り付けました。 また、ダブル雲台ベースの反対側には、極軸周りのバランスを取るために、 770gのバランスウェイトを装着しています。
なお、追尾テストは、光害のある市街地で実施したため、画質はよくありません。 また、長時間露光すると画像が真っ白に写ってしまいますので、それを避けるために、 対物レンズ部分に光量を減らす自作の絞りをつけています。 その影響で撮影画像の星像は若干いびつになっています。
素通しののぞき穴による方法
SWAT-200のボディには、右写真のように、極軸合わせに使用するための「北極星のぞき穴」が左右一つずつ開いています。 北極星のぞき穴の視界は約7度で、天体観望によく使われる双眼鏡の視界とほぼ同じです。
SWAT-200の説明書によると、北極星のぞき穴の中心に北極星を入れるだけで、 焦点距離100mmのレンズを3〜4分追尾できる精度で極軸セッティングできるとなっています。
機材を北天が見える場所に機材をセッティングした後、SWAT-200の穴を覗き込んで北極星を導入しました。 のぞき穴のなるべく中心に北極星を入れるため、 SWAT-200本体から少し眼を離し気味にして、入念に極軸合わせを行いました。
極軸を合わせた後、望遠鏡を天頂付近に向けて、星空を300秒露出で撮影しました。 下の写真の左側が全体画像、右側は星の部分をピクセル等倍で抜き出した画像です。 ピクセル等倍の写真をご覧いただくと、星が若干ずれて写っているのがわかります。
※画像に写っている黒い丸は、カメラのセンサー上のゴミです。
極軸望遠鏡を使った方法
SWAT-200にオプションで用意されている外付けの極軸望遠鏡を右写真のように取り付け、 スケールパターンにしたがって、北極星を導入しました。
なお、今回、テスト撮影に使用した初期タイプのSWAT用の極軸望遠鏡は、販売が終了しています。 現在は、ビクセン社ポラリエ用を流用した極軸望遠鏡PF-Lが発売されています。 北極星の導入方法は若干異なりますが、どちらも外付けタイプですので、 回転軸と極軸望遠鏡の平行がきちんと出ているか気になるところです。
極軸設定後、望遠鏡を天頂付近に向け、星空を300秒露光で撮影したのが下の画像です。 素通し穴を使って極軸を合わせた場合と比べると、星の流れは若干少なくなりました。
※画像に写っている黒い丸は、カメラのセンサー上のゴミです。
Pole Masterを使った方法
Pole Masterは、レンズ一体型のCCDカメラ(本体)とソフトウェアがセットになった電子極軸望遠鏡です。
右の写真は、Pole Master本体部分の写真ですが、 小さなカメラなので、SWATのターンテーブルにアダプターを介して取り付けることができます。
Pole Masterの極軸合わせは、パソコンのソフトウェアの指示に従って行います。 具体的には、ソフトウェアの画面上で北極星や指示星を選択した後、 ポータブル赤道儀のターンテーブルを回転させて、実際の回転軸と天の北極の軸が合っているかをPole Masterが識別し、 正しい北極星の導入位置をソフト上で示してくれます。
ポータブル赤道儀本体を載せている微動雲台を動かし、 ソフトウェアが指し示した位置に北極星を導入すれば、極軸合わせは完了です。
Pole Masterを使って極軸を設定した後、同じく望遠鏡を天頂付近に向けて、星空を300秒露出で撮影しました。 下がその写真です。ピクセル等倍で見ても、星は点像を保っているのがわかります。
※画像に写っている黒い丸は、カメラのセンサー上のゴミです。
テスト結果について
上記3点の画像の比較では、Pole Masterで極軸を合わせた場合の星のズレが最小でした。 念のため、複数回、撮影を行いましたが、いずれの場合も、Pole Masterを使った場合に最良の結果が得られ、 次点は極軸望遠鏡を使った場合でした。
北極星のぞき穴を使った時の星のズレも、予想していたほど大きくはありませんでした。 今回は焦点距離250mmの望遠鏡を使ったために星が若干流れていますが、 焦点距離100ミリ前後のレンズなら、北極星のぞき穴を使った極軸合わせで十分な精度が得られるかもしれません。
ちなみに、Pole Masterで極軸を合わせた後に、極軸望遠鏡のスケールを覗くと、 北極星がスケールパターンの導入位置から若干ずれていました。 極軸望遠鏡の光軸と、赤道儀の回転軸が少しずれているのでしょう。
まとめ
今回のテスト撮影の結果から、Pole Masterを使った場合が、最も精度良く極軸を合わせられることがわかりました。 Pole Masterを使う際はパソコンが必要になりますが、焦点距離の長いレンズを使って撮影する際には有効だと感じました。
一方、広角レンズで撮影する場合は、ポータブル赤道儀に設けられた素通しの穴を使った設定方法でも、 満足できる精度が得られると感じました。 素通しの穴と極軸望遠鏡を使った撮影画像との比較で、それほど差が出なかったことは驚きでした。
ただ、のぞき穴で極軸を合わせる方法は、ユーザーの穴ののぞき方によって、導入精度にばらつきが出ると思います。 そのようなばらつきを防ぐ意味でも、やはり極軸望遠鏡は有効なアイテムでしょう。
ポータブル赤道儀は、元々、広角レンズや標準レンズでの撮影に適した撮影機器ですが、 最近は200ミリ以上の望遠レンズで星雲や星団の撮影を楽しむ方も増えてきました。 赤道儀自体の追尾精度も重要ですが、Pole Masterを使えば、 より高精度の追尾撮影を楽しむことができそうです。