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ペンタックスMS-5赤道儀

ペンタックスMS5 ペンタックスMS-5赤道儀は、カメラメーカーのペンタックスが製造していた赤道儀で、 当時、市販の赤道儀としては最大級の大きさでした。

アマチュアが使用する天体望遠鏡の中では、口径30センチクラスが最大口径と言えますが、 このような大きな天体望遠鏡でも、MS-5なら余裕で搭載することができます。

ペンタックスMS-5赤道儀は、非常に頑丈に作られていますので、 重い機材を載せていてもグラツキが発生せず、安定感があります。 一方、赤道儀一式の重さは、100キロ前後と非常に重く、かなり大がかりな撮影機材となっています。

分割可能な各ユニット

ペンタックス MS-5は、巨大な赤道儀ですが、移動用としても使われることを前提に作られているのが特徴で、 赤経体、赤緯体、架台部分、それにピラー脚に分割できる構造になっています。

各ユニットは、M8のキャップスクリューボルトで組み立てます。 各ユニットの結合部分には、はめ込み用の溝が設けられているので、 想像しているよりも簡単に組み立てられるようになっています。

しかし、各ユニットの重さは約25キロと、それだけで中型赤道儀以上の重さがあります。 そのため、その重さと大きさのため、気楽に分割、組み立てというわけにはいきません。 遠征撮影のために持ち出すには、かなり大変な赤道儀のため、自宅に設置して使用することが多くなりました。

剛健な赤道儀

MS-5赤道儀は、販売開始当時、ペンタックス125EDHF望遠鏡とセットで発売されていました。 12.5センチの屈折望遠鏡には頑丈すぎる赤道儀でしたが、開発した旭光学株式会社の方にはポリシーがあったのでしょう。 当時の天文雑誌に、開発された方の言葉が載っていて、それは今でもおぼろげに覚えています。

「12.5センチの屈折望遠鏡を物理的に載せられる赤道儀ではなく、実際に載せて使える赤道儀を作りたかった。」

上記のような、開発者の方のコメントが載せられていたと記憶しています。 その開発者のコメントを読んで以来、この赤道儀に対する憧れのようなものを抱いていました。

そのポリシーに基づいて作られた赤道儀だけあって、MS-5赤道儀はとても頑丈に作られています。

例えば、タカハシTOA130望遠鏡は、タカハシEM-200赤道儀でも搭載可能ですが、 高倍率で惑星を観望している時に、アイピースに触れると、視野内で惑星が揺れてしまいます。 しかし、ペンタックスMS-5赤道儀に載せて観望すれば、接眼部を振ってもビクともしません。 強度の余裕と本体重量が、こうした安定感を生み出しているのでしょう。

ちなみに、カタログスペック上の搭載可能重量は40キロですが、 実際には50キロ以上の天体望遠鏡でも搭載可能だと感じています。 海外のフォーラムでは、60キロの機材を載せた写真も紹介されていました。

高い追尾精度とバランスウェイト

MS5赤道儀のウォームホイル 頑丈さから得られる追尾精度は相当なもので、 赤道儀の追尾精度の目安となるピリオディックエラー量は、メーカー発表値で±3.5秒と非常に小さくなっています。 市販されている赤道儀の中では、最も優秀な製品の部類に入るでしょう。

MS-5赤道儀の心臓部とも言える赤経、赤緯のギアには、 φ210mmの太いウォームホイールが採用されています(右上写真参照)。 このウォームホイールは大きいだけでなく、歯数も280枚と多いので、非常に滑らかな追尾を実現しています。

実際に撮影したピリオディックモーションの様子を以下に掲載しました。 MS-5のウォームは、約5分で一回転しますから、撮影時間は11分間で実施しました。 基準に使った星の離隔は20秒ほどですので、 この撮影結果からピリオディックモーションは±2.5秒前後と読み取れます。 メーカーの基準値内に入る値です。

MS5のピリオディックモーション

ところで、ペンタックスMS5赤道儀は、赤緯のモーターが望遠鏡側に付いているため、 載せる天体望遠鏡の重さ以上のバランスウェイトが必要になります。 これは重いウェイトを何枚も取り付ける必要があり、後継機のMS-55iで改善して欲しかった点の一つです。 SHOWAの20E赤道儀のように、モーターを下側にすることで、取付ウェイト重量の軽減を図って欲しかったところです。

なお、ペンタックスMS-5赤道儀用のバランスウェイトとしては、8キロと15キロのものが用意されています。 15キロのウェイトは非常に重く、これを一つ持ち上げるだけでも大変です。

導入しやすい極軸望遠鏡

MS5の極軸望遠鏡 MS-5赤道儀に内蔵されている極軸望遠鏡は、右のような時角の計算が必要ない早見タイプです。

大きな赤道儀ですが、タカハシEM-200赤道儀の極軸望遠鏡と同様に、 時間と日付を合わせれば、北極星導入位置が視野内に表示される案内方式です。

ただし赤道儀の水平出しは必要で、架台の横に取り付けられた水準器で水平を合わせます。 水平出しは面倒ですが、北極星の導入に時角の計算が必要ないのは助かります。 極軸望遠鏡の視野も明るく見やすいので、慣れれば北極星を手早く正確に導入できる赤道儀です。

極軸望遠鏡スケールに表示されている歳差補正目盛りは、元々は2005年まででしたが、 オーバーホールの際に、2025年までの製品と交換しました。 新型と交換したことによって、南半球用の導入スケールも表示されるようになりました。

回転の重さとグリス

ペンタックスMS-5の赤緯・赤経軸には、他の赤道儀と同じようにクランプが付属していますが、 クランプをフリーにしても軸周りの回転が重く、バランスが多少狂っていても軸が回転しません。

夏場でも回転は渋いですが、冬場は余計に重くなるようで、5キロ程度のバランスの狂いなら、 全くわからないほどです。 オーバーホール時にメーカー担当者に聞いたところ、 MS-5は軸周りの公差が極めて少なく造られており、潤滑と保護のため、 粘度が高いグリスが使われているのが要因とのことでした。

自動導入機能は欲しい

コントローラー 古い赤道儀ですので、モータードライブの最高速度は恒星時の16倍速までとなっており、 最近の赤道儀のような天体自動導入機能は搭載されていません。

右の写真はMS-5のコントローラーです。 発売開始当時は、次世代コントローラーと呼ばれましたが、今では次世代の影も形もありません。

しかし、モーターの速度は細かく変えることができるようになっており、追尾撮影を意識した作りになっています。 高速駆動ボタンは2段階になっていて、軽く押すと順回転、強く押し込むと反転という作りです。 オートガイダー端子は設けられていませんので、自分で配線して取り付けています。

ところで、私のMS-5赤道儀には、導入支援装置としてパルステック社のエンコーダー「アストロスケール」が取り付けられています。 しかしこの装置が故障しているため、いつも勘を頼りに天体を導入しています。 できれば交換したいのですが、古い装置のため程度の良い品を中古市場で探すしかありません。

メシエ天体をはじめとした明るい対象の導入は問題ありませんが、暗いNGC銀河の導入には、やはり自動導入装置が欲しいところです。 E-ZEUSなどの汎用自動導入対応モータードライブが販売されていますが、 MS-5赤道儀のモーターレーン(MS-5赤道儀はモーターとウォームホイールの間に減速ギアがない)を考えると、 モーターの交換で追尾精度が落ちるような気がして、躊躇してしまっています。

高速化されたMS-55iとMS-55z

ペンタックスMS-5赤道儀の後継機として、モーターの最高速を300倍に上げたMS-55i赤道儀が販売されていました。 そして、2003年にMS-55zと名付けられた最終モデルが発表されています。 このMS-55zには、最高速500倍のモーターが内蔵され、極軸望遠鏡はズーム式、バランスウェイトはスリーブ式になる等、 MS-5赤道儀の最終モデルに相応しい機能が盛り込まれていました。

しかし、MS-55zの価格は200万円ほどと、MS-5赤道儀が販売開始された頃の約90万円の倍以上の価格となってしまっていました。 この後、ペンタックスは天体望遠鏡業界から撤退してしまい、MS5シリーズの販売は終了しました。 今考えれば、MS-55zの価格設定の高さが、ペンタックスの業務縮小の前触れだったと言えるのかもしれません。

ストレートウェイトシャフト

ペンタックスMS-5赤道儀の純正シャフトは、タカハシNJP赤道儀と同じねじ込み式です。 ねじ込み式は、バランスウェイトがずれ落ちることがないので、備え付け赤道儀には適していますが、 移動用に使う場合は、ウェイトの着脱が大変で、ウェイトを足元に落とす危険も伴います。 そこで、ほしぞら工房さんに頼んで、MS-5用のストレートシャフトを製造していただきました。

依頼したMS5用ストレートシャフトは、長さ540mmで直径27mmの総ステンレス製です。 MS-5純正のネジ式シャフトの直径は30mm(ネジ)で長さが450mmですが、 ヘラクレス赤道儀用のバランスウェイトを共用できるように、27mm径で加工をお願いしました。

総ステンレス製のため、がっしりとしていて、シャフトを手に持つとかなり重たく感じられます。 ストレートシャフトのお陰で、撮影地でのバランスウェイトの着脱が楽になりました。 また、シャフト自体の長さも伸びたため、今までよりもウェイトの数を減らすことができるようになり、 助かっています。

ちなみに各社の代表的な赤道儀のバランスウェイトシャフト径は、以下のようになっています。

赤道儀の名称 バランスウェイトシャフト径
ペンタックスMS-5 30mm(ネジ)
ヘラクレス赤道儀 27mm
タカハシEM-400 25mm
タカハシNJP 25mm(ネジ)
タカハシEM-200,EM-10,EM-11 18mm
ケンコーEQ6Pro 18mm
ビクセンAXD 25mm
ビクセンSXP,SXD,SXW 20mm

お気に入りの赤道儀

以上述べてきたように、非常に重く大きく、そしてのろまな赤道儀ですが、私のお気に入り撮影機材の一つです。 特に赤緯側がしっかりしていていますので、安心してオートガイド撮影を任せられます。

ギャラリーにこの赤道儀とミューロン300望遠鏡で撮影 したNGC7331の写真を載せていますが、 この撮影にはAO7を使ったこともあり、赤道儀のモーターは一度も修正動作を行いませんでした。 現在は製造が終了してしまいましたが、日本が誇る高精度赤道儀の一つだと思います。

ペンタックスMS-5赤道儀のスペック

名称 MS-5
赤経ウォームホイル歯数 280
赤緯ウォームホイル歯数 280
ウォームホイル径 210mm(赤緯・赤経共)
軸径 75mm(赤緯・赤経共)
極軸望遠鏡 南北両用 時角計算盤付 15倍x32mm
傾斜可能角度 0-65度
電源 DC12V
導入速度 最大16倍
搭載重量 40キロ
本体質量 約88キロ

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