コーワ PROMINAR 500mm F5.6L レビュー
コーワ プロミナー(PROMINAR) 500mm F5.6Lは、 2010年に発売開始された、興和光学が製造するテレフォトレンズです。
興和光学のプロミナーと言えば、野鳥観察用のスポッティングスコープのブランド名として有名ですが、 コーワプロミナー500mmF5.6Lは、撮影を主目的に作られたテレフォトレンズです。
コーワ プロミナー 500mm F5.6Lは、元々、野鳥撮影用として製造・販売されていましたが、 結像性能の高さから、天体写真の撮影にも使われるようになり、私も天体撮影に愛用しています。
このページでは、コーワ プロミナー 500mm F5.6Lとデジカメで撮影した写真をご紹介しながら、 天体撮影に使用した際の使い勝手と、光学性能についてレビューします。
コーワ プロミナー 500mm F5.6Lの外観とシステム
コーワ プロミナー 500mm F5.6Lは、マスターレンズと呼ばれる本体にマウントアダプターを接続し、 撮影に使用するというシステム構成になっています。
マウントアダプターは3種類用意されており、それらを交換することによって、 3つの焦点距離(350mm、500mm、850mm)での撮影が可能です。
マスターレンズのボディには、フォーカスリングが設けられています。 フォーカスリングはデュアルフォーカス式となっており、大きく動くクィックフォーカスリングと、 細かくピント調整ができるファインフォーカスリングが設けられています。 フォーカスリングの動きは非常にスムーズですが、天体写真用途としては、 もう少しファインフォーカスリングの減速率を上げてほしいところです。
フォーカスリングの後ろには、絞り装置が設けられています。 天体写真の撮影ではあまり使うことはないと思いますが、よりシャープな写真を狙ったり、 野鳥を撮影したりするときには有用でしょう。
テレフォトレンズの全体的な外観は、暗めのF値の超望遠レンズのような細長いボディです。 ボディの色が黒色ですので、実際よりも細くコンパクトに感じます。 ボディに走っている赤いリングがワンポイントとなって、全体的に高級感を醸し出しています。
コーワプロミナー500mmF5.6Lには、Oリングやラバーリングなどが使用され、防塵・防滴仕様になっています。 また、製品にはフードと三脚台座が標準で付属しています。 三脚台座にはクィックシューが付属しており、マンフロット製のビデオ雲台などにそのまま取り付けることができますが、 天体写真用途としては、強度が足りないように感じました。 一方、フードは懐が深く、外部からの余計な光をしっかり防いでくれます。 取り付けもワンタッチで使いやすい外付けフードです。
マウントアダプターについて
コーワプロミナー500mmF5.6Lは、マスターレンズだけでは撮影に使用することができません。 マスターレンズの後ろにマウントアダプターを取り付け、そこにデジタル一眼レフカメラを接続して天体撮影に使用します。
マウントアダプターは、TX07、TX10、TX17の3種類が用意されています。 TX07とTX17には、マスターレンズの焦点距離を変更するコンバーションレンズが収められています。
各マウントアダプターを使用したときの光学系全体の焦点距離とF値は、以下の通りです。 なお、マウントアダプターのカメラマウントは固定式ですので、購入時に、 使用するカメラメーカーを指定する必要があります。
名称 | TX07 | TX10 | TX17 |
焦点距離 | 350mm | 500mm | 850mm |
明るさ | F4 | F5.6 | F9.6 |
価格(税別) | 25,000円 | 40,000円 | 50,000円 |
マスターレンズとマウントアダプターの接続は、ニコンのFマウント方式が採用されています。 ワンタッチで取り付け、取り外しが可能で便利ですが、天体撮影用途では、 この接続部分に起因するスケアリングのずれなどが気になるところです。 できれば、ねじ込みや、ネジ固定のスリーブ形状にしてほしいところです。
2014年、興和光学から、新しいタイプのマウントアダプター「TX07-T」と「TX10-T」が発売されました。
従来のマウントアダプターでは、使用するデジタルカメラのメーカーを変更した場合、 マウントアダプターごと交換する必要がありましたが、新型アダプターにはTリングが切られており、 市販のTマウントを交換すれば、様々なメーカーのカメラを接続することができるようになりました。
また、新型マウントアダプターの興味深い点は、アダプター後部のパーツを外すと、 タカハシ規格のM54ネジが表れることです。 ここにタカハシのカメラワイドマウントDXをねじ込み、デジタル一眼レフカメラを接続することができます。 タカハシ製のカメラマウントDXは強度が高いため、天体撮影用途なら、この接続方法がベストでしょう。 これからプロミナーを天体撮影用に購入される場合は、新型マウントアダプターがお勧めです。
コーワ プロミナー 500mm F5.6Lのバンド固定
コーワプロミナー500mmF5.6Lには三脚台座が付属していますが、これは野鳥撮影用であり、 長時間露光が必要な天体撮影用途では強度不足です。 そこで、私はK-Astec製の「プロミナー556用バンド(TB-P556F)」を使用しています。 天体望遠鏡のオリジナルバンドのように、上下分割式で、ネジで固定しますので、 プロミナー本体をしっかり固定することができます。
また、マスターレンズとマウントアダプターの接続部分のガタを減らすため、リアバンドも併用しています。 このリアバンドは、スリ割り式のバンドですので、マウントアダプターを交換するには、 下部のプレートも外さなければなりませんが、しっかりとアダプターを固定することができます。
上の写真は、プレートで固定した撮影機材の全体像です。 バンドとリアバンドの上には、マイクロフォーカスアジャスターの付いたプレートを取り付けています。 撮影時は、その上にオートガイダーを載せています。
なお、上の組み合わせで、天頂付近の天体を子午線を超えて1時間以上撮影し続けると、 最初と最後に撮った画像では、僅かな星のズレが認められました。 星のずれる方向から考えて、レンズの前部分に支持バンドがないためにズレが発生したと思われます。 撮影する方向にもよりますが、マスターレンズの前部分のどこかに、 支持バンド等を追加で設けて固定した方がより安心だと思います。
ピント合わせについて
コーワプロミナー500mmF5.6Lのシャープな像を生かすためにも、ピント合わせは入念に行いたいところです。 コーワプロミナー500mmF5.6Lにはデュアルフォーカサーが用いられていますが、減速比が小さく、 少し回しただけで、ピントが大きくずれてしまいます。
この問題を解消するため、K-Astecからマイクロフォーカスアジャスターが販売されています。 フォーカスリングに掛けたバンドを、ネジ回しでピントの微調整ができるようにしたシンプルなパーツですが、 これを利用すると、ピントの最後の追い込みがとても楽になります。
なお、ピント合わせには、バーティノフマスクを使用しています。 コーワプロミナー500mmF5.6Lには、口径10センチの天体望遠鏡用のバーチノフマスクが使いやすいでしょう。
コーワ プロミナー 500mm F5.6Lの星像について
天体写真ファンにとっては、光学系の星像が気になるところだと思いますので、 35ミリフルサイズのデジタル一眼レフカメラで撮影した画像を以下に載せました。 なお、画像は全て、絞り開放で撮影したものです。
まずは、マウントアダプターTX07と、キヤノンEOS6Dを組み合わせて撮影したときの画像です。 全体画像の下に、中央部と端部分の拡大画像を載せました。 こちらをご覧いただくと、星像は画面全体に渡ってほぼ均等で、画面端でもそれほど星像が崩れていないことがわかります。
次に、マウントアダプターTX10を使って撮影したときの画像です。 この画像の撮影には、ニコンD810Aを用いました。 上と同じく、全体画像の下に各部分の拡大画像を載せましたが、こちらの場合も星像の乱れは少なく、 画面端まで均等です。
マウントアダプターTX17は所有していないため、 それを用いた撮影テストはできていませんが、TX07とTX10を使った場合、 上述のとおり、35ミリフルサイズの画面全体に渡って星像はシャープであることがわかります。
また、色収差についても補正は良好で、ほとんど色収差を感じることはありませんでした。 コーワプロミナー500mmF5.6Lには、フローライトレンズと特殊低分散性を持つXDレンズが用いられていますので、 これらが色収差を良好に補正しているのでしょう。
ライバルはタカハシFSQ-85ED
タカハシFSQ-85EDは、天体写真の撮影用として人気のある天体望遠鏡です。 コーワプロミナー500mmF5.6Lとスペックがよく似ており、両者の目指す方向は異なるものの、 天体撮影の分野において、両機はライバル機と言えるのではないでしょうか。
FSQ-85EDとプロミナー
対物レンズの大きさはほぼ同じだが、鏡筒径はプロミナーの方が細い
両モデルのスペックの違いを、比較しやすいように下表にまとめました。 このように改めて比べてみると、口径や焦点距離だけでなく、価格もほぼ同じです。
名称 | コーワ プロミナー(TX10付) | タカハシFSQ-85ED |
レンズ構成 | 7群7枚 | 4群4枚 |
口径 | 約89mm | 85mm |
焦点距離、F値 | 500mm、F5.6 | 450mm、F5.3 |
レデューサー使用 | 350mm、F4(TX07使用時) | 327mm、F3.8(QE0.73×使用時) |
重さ | 約2kg | 約3.6kg(ファインダー含) |
価格 | ¥280,000 | ¥286,000 |
タカハシFSQ-85EDとキヤノンEOS6Dを組み合わせて、直焦点で撮影したところ、 中心像はシャープですが、周辺像が放射状に流れて写りました。
撮影結果をパソコンの画面に並べて比較したところ、中心像のシャープさは、 天体望遠鏡のタカハシFSQ-85EDとプロミナーはほぼ同等か、FSQの方が若干上だと思います。 逆に、周辺像の均質さは、コーワプロミナー500mmF5.6Lの方が優れていると感じました。
なお、2017年にタカハシからFSQ-85ED用の「フラットナー1.01×」が発売されましたので、 この補正レンズを使用すれば、結果は変わってくると思われます。
まとめると、タカハシFSQ-85EDは中心像のシャープさを求めた天体望遠鏡的な性格で、 2インチ天頂プリズムをはじめとした天体望遠鏡のパーツを使って、天体撮影だけでなく、 星空観望も楽しめる鏡筒という印象です。 一方、コーワプロミナー500mmF5.6Lは、カメラの望遠レンズ的な印象で、 画面全体の均質さが魅力であり、天体だけでなく、野鳥撮影などにも使える光学系と言えると思います。
追記: FSQ-85ED+レデューサーの周辺像ですが、フランジバックとスケアリングの調整を丁寧に行えば、良好になるそうです。 ただし、他の高橋の鏡筒同様、調整は非常にシビアで、 フランジバックは、0.1mmのオーダーで最適位置を見つける必要があると、ユーザーの方から教えていただきました。
海外遠征に使い易いプロミナー
天体写真ファンにとって、南半球の星空は憧れの対象です。 しかし海外遠征の場合、持っていける荷物に限界がありますので、機材の大きさや重さは大変重要な点です。 特にオセアニア方面の航空機は荷物の制限が厳しいため、少しでもコンパクトで軽い機材が望まれます。
その点から考えると、軽量のコーワプロミナー500mmF5.6Lは、海外遠征に適した機材だと思います。 500ミリという超望遠撮影が可能にも関わらず、本体の重さは2キロ弱と非常に軽く、 マウントアダプターを外せば、さらにコンパクトになるため、小さなバッグに収納することができます。 また、マウントアダプターを交換するだけで、3種類の異なった焦点距離で撮影できるのも大きな魅力です。
私は2016年のオーストラリア遠征で、コーワプロミナー500mmF5.6Lを現地に持参しましたが、 Amazon製の小さなカメラバッグに一式が収まり、手軽に持ち運ぶことができました。 右上は、コーワプロミナー500mmF5.6LとニコンD810Aを使って撮影した、エータカリーナ星雲の写真です。
まとめ
コーワプロミナー500mmF5.6Lは、マウントアダプターTX07、TX10と組み合わせると、 夏や冬の散光星雲の撮影に適した画角が得られるので、星雲の撮影に使いやすい鏡筒だと思います。
色収差は良好に補正され、星像も35ミリフルサイズのデジカメでも満足できるものです。 以前は、望遠レンズは天体望遠鏡に比べて星像が悪いというイメージがありましたが、 コーワプロミナー500mmF5.6Lはそのイメージを覆し、高性能フォトビジュアル機に匹敵する星像を見せてくれました。
また、小型で軽量なので、ビクセンAP赤道儀のような小型赤道儀でのオートガイド撮影が可能で、 全体の撮影機材がコンパクトになるのも魅力です。 今後も、小型・軽量で高性能のコーワプロミナー500mmF5.6Lを使って、 いろいろな場所で天体撮影を楽しみたいと考えています。
興和光学 コーワ PROMINAR 500mm F5.6L のスペック
名称 | PROMINAR 500mm F5.6L(TX10使用) |
焦点距離、明るさ | 500mm、F5.6 |
レンズ構成 | 7群7枚(蛍石1枚、XDレンズ1枚) |
絞り | F5.6〜F11(9枚羽根) |
最短撮影距離 | 3m |
フィルター径 | φ95mm(第一レンズ前面) | 重さ | 1,970g |
大きさ | 最大径104mm×341mm |
コーワPROMINAR 500mmF5.6FL 標準キット(キヤノン用)コーワPROMINAR500mmF5.6Lは、マウントアダプターと呼ばれるコンバーションレンズを交換することで、 350mm,500mm,850mmと三つの焦点距離で撮影を楽しめるテレフォトレンズです。 デジカメと組み合わせて天体撮影した際の性能はとても良く、ベテランからの評価も高い光学レンズで、 私もこの機材で撮影した天体写真をいくつかギャラリーに載せています。
また、プリズムユニットを使用すれば、フィールドスコープとしても使用できるので、
野鳥や月の観察にも使えるようになります。
天体撮影にも使用できるコンパクトで、マルチパーパスな一本を探している方に適した機材だと思います。 |