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タカハシ FC-76D レビュー

タカハシ FC-76DC タカハシ FC-76Dは、高橋製作所が製造している屈折式天体望遠鏡で、2012年6月に発売開始されました。

FC-76Dは、1980年代に人気を博した同社のFC-76のリニューアルモデルに位置づけられる天体望遠鏡で、 デジタル天体写真の時代に対応した光学系が採用されています。

FC-76Dはコンパクトで軽く、手に入れやすい価格帯のため、 天体観測に興味を持ち始めた初心者の方にも人気がある天体望遠鏡です。

FC-76Dの光学系とラインナップ

先代のFC-76は、1981年にFCシリーズの先駆けとして、FC-100と共に発売開始されました。 FC-76にはフローライトの凸レンズを後ろ側に配置したスタインハイル型が採用され、 天文ファンの人気を集めます。

その後、フローライトの凸レンズと組み合わせる凹レンズが環境への配慮のために製造が難しくなり、 FC-76は1990年代に生産を終了しました。

FC76Dの対物レンズ

FC-76の後継のFC-76Dには、オリジナルのFC-76と同様、 後ろ玉にフローライトレンズを配した光学系が採用されています。 前玉の凹レンズには、エコガラスが使用されており、 焦点距離はオリジナルに比べて30mmほど短くなったにも関わらず、 デジタル撮影で気になる青ハロは、約30%減少したとメーカーは発表しています。

FC-76Dには、光学系が同じで鏡筒部分が異なる2タイプが用意されています。 一つはオリジナルのFC-76と鏡筒径(95mm)が同じFC-76DSで、 2インチサイズのアイピースに対応し、伸縮式のフードが採用されています。

もう一つは鏡筒径がFC-60シリーズと同じ80mmで、31.7mmサイズのアイピースに対応したFC-76DC、FC-76DCUです。 FC-76DC、FC-76DCUにはファインダーは付属せず、販売価格が抑えられたモデルです。

FC-76DCUとFC-76DC

FC-76DCUとFC76DC(奥)
2016年12月から分割鏡筒のFC-76DCUが標準仕様となった

なお、FC-76DSとDC、DCUで鏡筒径は異なりますが、対物レンズのセルは全く同じものが採用されています。

鏡筒名 生産開始年 口径 焦点距離 口径比 鏡筒径 重さ
FC-76 1981年 76mm 600mm 7.9 95mm 2.8kg
FC-76DS 2012年 76mm 570mm 7.7 95mm 3kg
FC-76DC/DCU 2012年 76mm 570mm 7.7 80mm 1.8kg

FC-76Dにはいくつかの限定モデル(派生モデル)が販売されており、以下に列記します。

2012年9月:高橋製作所創業80周年記念モデルとして、 鏡筒部分を2分割可能な、FC-76DCアニバーサリーモデルが30本限定で発売。

2012年11月:FS-60CB鏡筒をFC-76DCにアップグレードできるFC-76DC対物ユニットが販売開始。

2016年5月:FC-76Dの対物レンズとエクステンダーCQ1.7Xを組み合わせて長焦点化できる、 「FC-76DCU+EX-CQセット」を30セット限定で販売。

2016年12月:FC-76DCUが発売開始。以後、FC-76DCUが標準仕様。

2024年6月:FC-76DSの生産休止

以下、私が所有しているFC-76DCとFC-76DCUを中心にご紹介します。なお、FC-76DCとDCUは、 鏡筒が分割できる機構以外は全く同じ仕様ですので、 同機構以外はFC-76DCをDCUと読み替えてお考えください。

FC-76DCUの外観と接眼部

FC-76DCUは鏡筒が細いため、一見すると、一昔前のF値の暗い6センチクラスの天体望遠鏡のように見えます。 鏡筒径が小さいと、筒内反射を拾いやすい可能性がありますが、 片手でも持ちやすい(つかみやすい)のは利点でしょう。

接眼部には、FC-60シリーズと共用の接眼アダプターが標準付属していますが、 FC-76DCUはドロチューブの繰り出し量が少ないため、使用する接眼レンズによっては、 接眼アダプターの一つ(ドロチューブ延長筒(FS-60CB))を外さないと、 ピントが出ない場合があります。

FC-76DCU接眼アダプター

標準付属の接眼アダプター。アイピースによって付け替えが必要

ドロチューブ自体の動きは滑らかで、タカハシ製らしいスムーズな動きです。 ドロチューブ固定用ロックネジも軽く締めれば、しっかりと固定され、 重いアイピースを取り付けても、ずれ落ちてくる心配はありません。

FC-76DCUは、鏡筒を二つに分解すると全長が短くなるので、防湿庫での保管にも便利です。 また、カメラバックにも入れやすいので、海外遠征時に重宝する鏡筒だと思います。

タカハシFC-76DCUの結像性能

FC-76DCUに高倍率アイピースを取り付け、恒星像を確認しました。 色収差は感じられず、非常にシャープな星像を結びます。 焦点内外像はほぼ対称で、気流の良い夜にはジフラクションリングも綺麗に見えました。

所有している2本の(FC-76DCとFC-76DCU)を見比べてみましたが、 どちらも星像の見え方は同等で、焦点内外像の傾向も同じでした。 視野は明るく、コントラストも良好です。

FC-76DCUの対物レンズ

FC-76Dの対物レンズ。光軸調整機構は設けられていない

光軸調整機構は省かれていますが、光軸はしっかりと合っています。 旧FC-76が発売されていた頃は、小口径の天体望遠鏡でも光軸調整機構が設けられていましたが、 現在は、機械加工精度が向上したため、 口径10センチまでの天体望遠鏡では光軸調整機構は省かれることが多くなっています。

タカハシFC-76DCUで天体観望

晴れた夜、FC-76DCUを使って主要な天体を観望してみました。

上弦の月全景を視野に入れると、漆黒の背景宇宙から月が浮き立つように見え、 天体望遠鏡のコントラストの良さを感じます。 アクロマート式の望遠鏡では気になる月の欠け際の色収差も感じられず、すっきりとした見え方です。

アイピースを変えて拡大率を上げると、 プトレマイオスをはじめとした主要なクレーターの凹凸がよくわかり、 改めて8センチクラスのフローライトアポクロマート天体望遠鏡の性能の高さを感じました。

FC-76DCUと接眼レンズ

観望好機を迎えた頃、木星も観望してみました。 120倍程度のアイピースを使って観望すると、木星特有の縞模様も確認でき、 ガリレオ衛星も明るく輝いて見えました。 土星の環もはっきりと見え、小口径ながらも、惑星観望も楽しめる鏡筒と感じました。

郊外に出かけた際に、主要な系外銀河や星雲星団の観察も行いました。 系外銀河については、口径不足は否めず、子持ち銀河をはじめとした明るい銀河の存在を確認できる程度でした。

一方、星雲星団については、オリオン大星雲やすばる等の天体を低倍率で眺めると、口径から想像していた以上に、星々の色の違いがよくわかり、美しく感じられました。 夏の天体観望には、FC-76DCUを使用したことはありませんが、 いて座の星雲や星団の観望を楽しめることと思います。

FC-76DCUの天体写真撮影用パーツ

FC-76DCUの結像面は、他の2枚玉の天体望遠鏡同様、 中心像は非常にシャープですが、像面が湾曲しているため、周辺に近づくにつれ、星像はボケていきます。 そのため、補正レンズ無しの状態でデジタルカメラを取り付けると、周辺部は星像が放射状に延びて写ります。

FC-76Dと補正レンズ

FC-76DCにレデューサーレンズを取り付けた様子

この像面湾曲を補正するため、オプションでフラットナーレンズが用意されています。 また、焦点距離を短くしてF値を明るくするレデューサーレンズもオプション設定されています。 これらの補正レンズを使用すれば、 FC-76DCUとデジタル一眼レフカメラや冷却CMOSカメラを使って、天体撮影を本格的に楽しむことができます。

※このレビューでは取り上げませんが、 フラットナーとレデューサーの他に、焦点距離を延ばすエクステンダーレンズもオプションで用意されています。

FC-76DCU用のフラットナーレンズ

FC-76DCUに使用できるフラットナーレンズは、76DフラットナーとFC/FSマルチフラットナー1.04xです。 FC/FSマルチフラットナー1.04xは、76Dフラットナーの後継モデルで、同社製の2枚玉フローライト屈折望遠鏡と汎用性があります。

76Dフラットナー

FC-76DCUに76Dフラットナーを装着すると、焦点距離は594mmに若干伸び、F値は7.8となります。 イメージサークルは約40ミリで、35ミリフルサイズをほぼカバーします。

FC-76DCUと76Dフラットナーの星像

上に掲載した画像は、FC-76DCに76Dフラットナーを取り付け、ニコンD810Aで撮影した網状星雲の写真です。 撮影したままの未処理画像ですが、周辺減光はそれほど目立ちません。

FC-76DCUと76Dフラットナーの星像

大サイズの画像もご覧ください。

次にピクセル等倍に切り取った画像を掲載しました。 デジタル撮影で気になる青ハロの発生は皆無です。 35ミリフルサイズ最周辺部になると、若干色ずれが発生しますが、星像はほぼ円形を保っています。

FC/FSマルチフラットナー1.04x

FC/FSマルチフラットナー1.04xは、2018年8月に発売された補正レンズです。 FC-76DCだけでなく、FS-60CB、FC-76D、FC-100Dの他、生産が終了したFSシリーズや、旧FCシリーズにも使用できるフラットナーレンズです。

FC-76DCUに76Dフラットナーを装着すると、焦点距離は590mmになり、F値は7.8となります。 イメージサークルは約44ミリで、35ミリフルサイズをカバーします。

FC/FSマルチフラットナー1.04xの星像

FC-76DCにFC/FSマルチフラットナー1.04xを取り付け、ニコンD810Aで撮影した画像を上に掲載しました。 FC76Dフラットナーの時と同様、撮影したままの未処理画像です。 夜空の透明度が悪かった影響もあると思いますが、周辺減光が感じられます。

FC/FSマルチフラットナー1.04xの星像

大サイズの画像もご覧ください。

各部をピクセル等倍で切り取った画像を上に掲載しました。 デジタル撮影で気になる青ハロの発生は皆無でシャープです。 35ミリフルサイズ最周辺部でも色ずれの発生はほとんど感じられず、星像も真円に近いです。

76DフラットナーとFC/FSマルチフラットナー1.04xの比較

新旧フラットナーの星像を比較すると、中心付近の星像には差異は見出せませんが、 35ミリフルサイズの周辺星像については、FC/FSマルチフラットナー1.04xの方が色ずれが少なく良好です。

また、76Dフラットナーの星像は、FC/FSマルチフラットナー1.04xと比べると、 中心付近は丸いですが、APS-Cの周辺付近で星像が一旦伸びたように写り、 その外でまた星像が丸く戻っていきます。

76Dフラットナーの比較

APS-Cサイズ最周辺部の星像

メーカーが発表しているスポットダイアグラムからも、 中心から14ミリ付近で星像が伸び気味なのが確認できるので、 76Dフラットナーはこのような設計になっているのでしょう。

76Dフラットナーの比較

フラットナーレンズ使用時のスポットダイアグラム

周辺減光については、FC/FSマルチフラットナー1.04xの方がイメージサークルは広いものの、 それほど大きな差異は見出せませんでした。

比較すると、全体的にFC/FSマルチフラットナー1.04xの方が性能面で優れていますが、 76Dフラットナーもそこまで性能が悪いわけではなく、手に入れやすい価格の補正レンズと言えると思います。

補正レンズ名 76Dフラットナー FC/FSマルチフラットナー1.04x 76Dレデューサー
焦点距離 594mm 590mm 417mm
口径比 7.8 7.8 5.5
イメージサークル 40mm 44mm 36mm
価格(税込) 16,720円 23,100円 49,500円

※76Dフラットナーは生産終了

FC-76DCU用のレデューサーレンズ

FC-76DCUに使用できるレデューサーレンズは、76Dレデューサーです。 76Dレデューサーを使用すると、焦点距離は417mmまで短くなり、F値は5.5になります。 F値が明るくなるので、デジタルカメラを使った天体撮影に使いやすい光学系になります。

76Dレデューサーの星像

上に掲載した画像は、FC-76DCに76Dレデューサーを取り付け、キヤノンEOS6Dで撮影した未処理画像です。

76Dレデューサー使用時のイメージサークルは約36ミリと狭いため、35ミリフルサイズの撮影では、写野の四隅の光量が大きく落ち込んでいます。また、最周辺部の星像は放射状に伸びています。

76Dレデューサーの星像

大サイズの画像もご覧ください。

上にピクセル等倍画像を掲載しました。 中心部はシャープですが、35ミリフルサイズ周辺部では星が流れたように写っています。 周辺部は補正レンズのイメージサークルの外側なので、仕方ないところでしょう。 下にAPS-Cサイズに切り取ったピクセル等倍画像を掲載しました。

76Dレデューサーの星像

76Dレデューサーの星像

大サイズの画像もご覧ください。

APS-Cサイズの範囲内なら、大きな周辺減光は感じられず、 最周辺部の星に若干色ずれは発生していますが、星の形はほぼ丸く写っています。

フラット補正のことを考えても、76Dレデューサーを使用して撮影するときは、 センサーサイズがAPS-C程度のデジタルカメラで撮影するのがベストでしょう。 星像自体はシャープなので、明るいF値を生かして、淡い星雲を撮影する際に重宝する補正レンズと思います。

FC-76DCUとマッチする架台

FC-76DCUは2キロ前後と軽く、ポータブル赤道儀にも搭載できる重さですが、 鏡筒が長いので、ある程度強度のある架台に搭載した方が良いでしょう。 ポータブル赤道儀なら、ユニテック SWAT-350が搭載重量に余裕があって安心です。

ドイツ式の赤道儀の場合は、ビクセン AP-WM赤道儀が適しているでしょう。 AP-WM赤道儀なら赤経・赤緯軸共にモータードライブが付属しているので、 本格的なオートガイド撮影にも使用できます。

FC-76DCUと架台

ビクセンAP-WM赤道儀に載せたFC-76DCU
バランスが良い組み合わせだ

天体の自動導入機能が必要な場合は、タカハシ EM-11 Temma3赤道儀、ビクセンSX2赤道儀、 スカイウォッチャーEQM-35Pro赤道儀あたりが、FC-76DCUを載せるのに適した架台になると思います。

また、天体望遠鏡ショップでは、FC-76DCUと経緯台式の架台をセットにした商品も販売されています。 天文に興味を持ち始めたばかりなら、まずはFC-76DCUの経緯台セットで天体観望を楽しみ、 天体写真撮影にチャレンジしたくなったら、赤道儀やオプション品を買い足すのがお勧めです。

やっぱりナナロク!と思わせる鏡筒

タカハシ FC-76DCで撮影した網状星雲拡大 タカハシFC-76DCを自宅での観望を中心に愛用してきて、やはりナナロクは使いやすいと改めて感じています。

惑星の観望では集光力不足を感じることはありますが、口径10センチの天体望遠鏡を出すとなると、 それなりの架台を設置する必要があり、準備が面倒になります。その点、FC-76DCなら、 架台を合わせても6キロ前後と非常に軽いので、 晴れた夜にさっと一式出して天体観測を楽しむことができます。

口径は小さくても性能は折り紙付きですから、星像はシャープで、月面の小さなクレーターや細かいリッジもよく見え、 リアル感のある月面観望を楽しめます。 夜空の暗い場所なら、大型の星雲や散開星団の観望も楽しめるでしょう。

天体撮影の面では、レデューサーレンズを使用した際のイメージサークルが、 35ミリフルサイズ対応でない点は残念ですが、 フラットナー使用時の星像は写野端までシャープで、ベテランも満足できる結像性能です。 天体撮影用のモノクロ冷却CMOSカメラと組み合わせれば、本格的な天体写真撮影にも使える鏡筒でしょう。

初代が発売開始された1980年代、 FC-76は“ナナロク”と呼ばれて天文ファンの注目を集めましたが、 新ナナロクとなったFC-76Dは、デジタル時代のスタンダード機として、 これからも広く支持されていく天体望遠鏡だと思います。

タカハシ FC-76D スペック

名称 タカハシ FC-76DS タカハシ FC-76DCU
形式 2群2枚 フローライトアポクロマート 同左
有効径 76mm 同左
焦点距離、F値 570mm、F7.5 同左
鏡筒径 95mm 80mm
鏡筒長 660mm 650mm
重さ 3kg 1.8kg
希望小売価格 ¥188,100(税込) ¥145,200(税込)

※価格は、2021年4月時点での希望小売価格

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