リッチークレチアン望遠鏡 Ritchey-Chretien Telescope
リッチークレチアン望遠鏡(又はリッチークレティアン)は、よくRC望遠鏡と呼ばれている天体望遠鏡です。 非常に広い視野を写せるのが特徴で、カセグレン式の望遠鏡となっています。
このリッチークレチアン望遠鏡は、H.クレティアンとG.W.リッチーの二人で完成させたことから、二人の名前を取ってこう呼ばれています。 1930年代にアメリカ海軍天文台に設置された102センチの望遠鏡が、世界初のRC望遠鏡と言われています。
反射望遠鏡の欠点を克服したリッチークレチアン望遠鏡
反射望遠鏡は、ニュートン式でもカセグレン式でもコマ収差があることが最大の欠点です。 コマ収差は視野の隅に行くほど大きくなる収差で、星像が扇状に広がって写ってしまいます。 コマ収差は眼視観測の場合には、それほど気になりませんが、直焦点撮影で写真を撮影する時には大きな問題になります。 もちろんデジタルカメラの撮像素子の面積が大きくなればなるほど、コマ収差は大きく出てきてしまいます。
コマ収差の大きさは、口径比の2乗に反比例して大きくなります。 したがって、天体望遠鏡のF値が同じであれば、コマ収差の大きさは同じになります。 なるべくF値が大きい反射望遠鏡を使えばコマ収差が目立ちませんが、撮影時間がかかるようになってしまいます。
そのコマ収差を克服したのがリッチークレチアン望遠鏡です。
RC望遠鏡にはコマ収差が全くないので、フルサイズを超える大きなデジタルカメラも使用できます。
ただしリッチークレチアン望遠鏡の結像面は強く弯曲しています。
そのため、隅までピントを合わせるためには、その弯曲に合わせて撮像素子を曲げてやる必要があります。
実際にはこれは現実的でないので、補正レンズが使われています。
※右上はアメリカの友人が使っているRCOS社のリッチークレチアン望遠鏡
天体写真ファンに人気のリッチークレチアン望遠鏡
色収差が発生しない反射光学系は、現代のデジタルカメラには最適です。 最近はより大きなフォーマットを持ったデジタルカメラが登場しているので、リッチークレチアン望遠鏡が再び注目されるようになりました。
海外でもリッチークレチアン望遠鏡はハイアマチュアやプロの写真家に人気があります。 海外のサイトを探せば、明るさF8程度のRC望遠鏡を作っているメーカーが見つかるでしょう。 中でもアメリカのRCOS社は、世界中で人気があるリッチークレチアン望遠鏡メーカーです。
リッチークレチアン望遠鏡はF8前後と暗いものが多いですが、中にはタカハシのBRC250のようにF5まで明るくしたモデルがあります。 このようなリッチークレチアン望遠鏡は、像面平坦化レンズを装着しているので、準RC望遠鏡と良く呼ばれています。
リッチークレチアン式望遠鏡に使われている鏡は、研磨の困難な高次双曲面です。 また副鏡もF値の割に大きいので、高倍率を求める用途には余り向かないでしょう。 写真専用として割り切った方が、リッチークレチアン式望遠鏡の性能を生かせる使い方だと思います。
広い写野が最大の武器
上でも見てきたように、リッチークレチアン望遠鏡の最大の魅力は広視野です。 銀塩フィルム時代は、大判(4x5判)以上のフィルムを使える撮影望遠鏡が求められていましたので、 広い写野をもつリッチークレチアン望遠鏡が注目され各地に天文台が建造されました。
デジタル時代になった今でも、リッチークレチアン望遠鏡は人気があります。 各地に建てられる大型の公共天文台はリッチークレチアン望遠鏡が多く使われていますし、 国立天文台のすばる望遠鏡もRC光学系を用いています。
光軸合わせが難しいRC鏡筒
リッチークレチアン望遠鏡には高次非球面の鏡が使われているため、光軸合わせは困難です。 鏡の方向きやスパイダーの長さだけでなく、副鏡と主鏡の前後間距離も重要になってきます。 3次元で考えて光軸を追い詰めていく必要があります。
特にF5と明るいタカハシBRC望遠鏡は光軸のズレにシビアです。 BRC250はタカハシが誇る望遠鏡だけあって、スパイダーや副鏡周りは頑丈な作りになっているので、光軸はずれにくい構造になっています。 しかし、何かの衝撃で大きく光軸がずれてしまうと、ユーザーが修正することは困難です。 光軸調整装置を持っているメーカーに調整を任した方が無難でしょう。
リッチークレチアン鏡筒の光学設計
リッチークレチアン鏡筒は、上記のようにコマが全くない広視野が得られますが、像面は強く弯曲します。 具体的には下のような構造をしていて、副鏡と主鏡は複雑な高次非球面鏡です。 像面は強く曲がり、そのため周辺星像はコマはありませんが、ぼんやり伸びたように写ります。
しかし、35ミリフルサイズ程度のデジタル一眼レフカメラでしたら、それほど大きな星像の悪化は目立た ないと思います。この図は少し大げさに書いています。 もし気になるようでしたら、フィールドフラットナーと呼ばれる像面平坦化レンズを用いればよいでしょう。