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カノープスの見つけ方

カノープスは、シリウスに次いで夜空で2番目に明るい恒星ですが、 南半球の星座に位置しているため、日本からは地平線すれすれにしか見ることができません。 しかし、見ることが難しいがゆえに、「カノープスを見ると長生きする」と言われるなど、 昔から人々の注目を集めてきました。 年始に当たって、縁起の良いカノープスを探してみてはいかがでしょうか。


カノープスはどんな星

カノープス カノープスは、「りゅうこつ座」のα星です。 カノープスの明るさはマイナス0.72等で、太陽を除けば、全天で2番目に明るい恒星です。 カノープスは青白く輝く星ですが、日本で見ると、低空の大気の影響を受けるため、色がにごり、黄色っぽく見えます。 右は、南半球で撮影したカノープスの写真です。

日本でカノープスが見えるのは、冬の星座が見やすくなる11月〜2月頃です。 オリオン座のα星ベテルギウスが南中した後、約30分後に、カノープスの高度は最も高くなります。 オリオン座が南の方向に見える時間帯を狙って、カノープスを探すと見つけやすいでしょう。

ちなみに、毎年、元旦の午前0時頃に、カノープスは南中します。 大晦日の夜から元旦にかけて初詣に出かける際に、カノープスを探してみるのも楽しいのではないでしょうか。 初日の出ならぬ、初カノープスですね。


長寿星と呼ばれるカノープス

南半球では、カノープスは天頂付近で煌々と輝くため、探し出す楽しみは特にありませんが、 日本や中国では、カノープスは地平線すれすれに輝くため、見つけただけで嬉しくなります。 現在のように科学技術が発展していなかった時代には、 カノープスを、毎年、冬になると地平線近くで輝く不思議な星だと考えてもおかしくありません。 そのせいかどうかわかりませんが、古く中国では、カノープスを「南極老人星」と名づけ、神格化していました。

南極老人は、平和や幸せを司る道教の神様です。 七福神の神様の一人として知られる寿老人も、南極老人がモデルだという説もあります。 これらの伝説が元となって、「カノープスを見ると長生きする」という言い伝えが生まれたのでしょうか。 今では、カノープスは「長寿星」と呼ばれ、星空の中で最もご利益のある星として知られています。


カノープスの南中高度

実際にカノープスを探す前に、カノープスの南中高度を確かめておきましょう。 カノープスの赤緯は、マイナス52度42分(天体の位置を表す値)と低いため、 緯度の高い北海道や青森県では、カノープスは地平線の下に隠れてしまいます。

カノープスが見える北限の緯度は、単純に計算すると「北緯37度18分」です。 実際には、光は地球の大気を通過する際に屈折しますので、星は若干浮き上がって見え、 特に低空では、その度合いが大きくなりますので、 それを考慮に入れると、「北緯37度50分」前後がカノープスが見える北限の緯度となります。

参考までに、主要都市におけるカノープスのおおよその南中高度を一覧にまとめました。

観測場所 観測場所の経度/緯度 カノープスの南中高度
東京 東経139度34分/北緯35度41分 約2度
長野 東経138度/北緯36度13分 約1.5度
名古屋 東経136度52分/北緯35度11分 約2.5度
大阪 東経135度25分/北緯34度34分 約3度
和歌山県串本町 東経135度44分/北緯33度28分 約4.5度
鹿児島 東経130度37分/北緯31度53分 約6度
沖縄 東経127度26分/北緯25度59分 約12度
上海 東経121度28分/北緯31度14分 約6.5度
シドニー 東経151度12分/南緯33度53分 約72度

※参考図書:天文年鑑、月刊天文ガイド

上の表をご覧いただくと、東日本でカノープスを観察するには、条件が厳しいことがわかります。 私が撮影に訪れる紀伊半島の南端での南中高度は、約4.5度です。 この程度の高さがあれば、比較的容易にカノープスを見つけることができます。 鹿児島なら、カノープスの南中高度は約6度もあるので、条件良く観察することができるでしょう。 さらに沖縄まで行けば、南中高度は約12度もあるので、少々の霞空でも楽に発見できそうですね。


カノープスが見える場所

カノープスを見つけるには、南の視界が地平線まで開けた場所で探すことが大切です。 それも標高の高い場所ほど有利です。 標高の高い場所であれば、同じ緯度の平地で見るよりも、より低い星まで見ることができるからです。

上記の条件を満たす理想的な場所は、星空が綺麗に見える高い山の頂でしょう。 しかし、カノープスを見ることができるのは真冬ですから、郊外の山は積雪等でアクセスが悪くなります。 そこで現実的には、南側の視界が開けた丘や南側が海になる半島のような場所が、 カノープス探しに良いと思います。

また、もっとお手軽にカノープスを探せる場所として、高層ビルの展望台もお勧めです。 カノープスは明るいので、少々光害があっても見つけることができます。 幸い、カノープスが見える冬の時期は透明度が良く、低空まで見渡すことができます。 実際、六本木ヒルズやサンシャイン60の展望台からカノープスが見えたという報告もあります。 このような場所なら、どなたでも安全にカノープス探しを楽しむことができるのではないでしょうか。


カノープスの探し方

カノープスの見つけ方図 カノープスを見つけるには、まず星座アプリや星座早見盤を使って南中時刻を調べ、 南中時刻の少し前に観測場所に着くようにしましょう。 もしカノープスの南中時刻が分からない場合は、カノープスは、オリオン座が南中した後、 30分〜1時間後に南中するので、オリオン座の南中時刻を目安にするとよいでしょう。

現地に着いたら、まず南の方向を確認します。 次に、オリオン座を探し、オリオン座の左上で輝く一等星「ベテルギウス」の位置を確認します。 そこから左下に目を移すと、全天で最も明るい星「シリウス」が輝いているはずです。

カノープスは、ベテルギウスとシリウスのほぼ中間点をずっと下に伸ばしたところに位置しています。 中間点がわかりにくければ、シリウスから視線を下に降ろして、地平線辺りに輝いている星を探してみましょう。 低空まで綺麗に晴れた冬空なら、都市部の光害の中でも、黄色っぽく輝くカノープスの光を見つけられるはずです。 見つけた光がカノープスか都市部の灯りかどうか判断がつかない場合は、窓枠にデジカメを置いて固定撮影してみてください。 もし見つけたのがカノープスであれば、日周運動のため、点ではなく軌跡として写るでしょう。


カノープスの北限記録にチャレンジ

カノープスは南の地平線すれすれに見えるため、北に行けば行くほど観測条件が厳しくなり、 青森県や北海道では地平線から顔を出すことはありません。 そこでカノープスが見える最北地点はどこだろうと、「カノープスの北限記録」が話題になっています。

私の知る限り、これまでにカノープスの北限記録とされているのは、 1983年10月に竹内さんという方が樹立された、山形県の月山です。 当時、天文ガイドの表紙にもその写真が掲載されて、注目を集めました。 月山は山形県中央に聳える標高1980mの山です。 月山の緯度は北緯38度32分と、計算上のカノープスの限界緯度よりも北ですが、 標高が高いので見ることができたのでしょう。

月山の記録を破るのは難しいと思いますが、 北緯38度以北の場所でカノープスを確認することができれば、 大きな話題になると思います。 太古から多くの人を魅了してきたカノープスを、この冬、探してみてはいかがでしょうか。