南十字星の見つけ方
南十字星と聞くと、どこか神秘的な雰囲気がただよいます。 南十字星は天の南極付近で輝いているため、日本の本州から全景を見ることはできませんが、 その見ることの難しさが、より一層、南十字星を特別な存在にしている気がします。 ここでは、その南十字星の見つけ方について、南天星座の紹介と共に解説しています。
南十字星とみなみじゅうじ座
南十字星という名前から想像すると、南の空に輝く明るい一つの星を想像するかもしれません。 しかし実際には南十字星という一つの星が存在するわけではなく、 これは「みなみじゅうじ座」という星座につけられた呼び名です。
みなみじゅうじ座は、4つの明るい星からなる、全天一小さくて、十字の形が美しい星座です(右写真)。 その十字の形から、英語ではサザンクロス(Southern Cross)とも呼ばれています。 みなみじゅうじ座は、大航海時代には正確な南方向を知る上での指標とされていました。 真っ暗な海の上を移動する航海士にとって、夜空に輝く十字架は神の加護か何かのように見えていたことでしょう。
みなみじゅうじ座の4つの星には、右上の写真のように名前が付けられ、それぞれの明るさが異なっています。
一番明るい星のα星は、アクルックスで0.7等星です。この星がみなみじゅうじ座の中で一番南に位置しています。 次に明るい星がベクルックス、1.3等星で、十字架の左側で輝いています。 そしてガクルックスが1.6等星で、この星は一番北で輝いているので、鹿児島県でも水平線近くに見つけることができます。 最後に十字架の右側で輝く星が、δ星(デルタ)です。 δ星は他の星に比べて暗いので、みなみじゅうじ座を見るときには注意してみてみましょう。
南十字星が見える場所
南十字星の赤緯はマイナス58度(天体の位置を表す値)と低いため、 東京や大阪からではその姿を全く見ることができません。 南十字星の全景を見ようと思えば、北緯26度より南の場所まで出かけないといけません。
日本で南十字星を見られる場所は、沖縄県の石垣島周辺になります。 私は日本最南端の波照間島まで南十字星を探しに出かけたことがあります。 波照間島は北緯24度ですから、南十字星は地平線ぎりぎりに見える計算になります。 下が波照間島で撮影した南十字星の写真です。 水平線近くのもやの中で南十字星が輝いていました。
夜空に明るく輝く南十字星を見たいなら、日本を離れて海外に出かける必要があります。 北緯26度以南でしたらどこでも見えますが、できるだけ南に行くほど南十字星の高度は上がります。 下に観測場所と、南十字星の地平線からのおおよその南中高度をまとめてみました。
観測場所 | 観測場所の経度/緯度 | 南十字星の高さ |
サイパン島 | 東経145.7度/北緯15.2度 | 15度前後 |
グアム島 | 東経144.7度/北緯13.4度 | 17度前後 |
パラオ | 東経134.5度/北緯7.4度 | 22度前後 |
シンガポール | 東経103.8度/北緯1.3度 | 27度前後 |
バリ島 | 東経115.1度/南緯8.3度 | 38度前後 |
オーストラリア ケアンズ | 東経145.7度/南緯16.9度 | 47度前後 |
フィジー | 東経177.9度/南緯17.8度 | 48度前後 |
シドニー | 東経151.2度/南緯33.8度 | 64度前後 |
ニュージーランド テカポ湖 | 東経170.5度/南緯43.9度 | 74度前後 |
アルゼンチン ウシュアイア | 西経68.2度/南緯54.8度 | 84度前後 |
地表からの高度が30度前後あれば、地平線近くのもやの影響も少なくなりますので、 明るく輝く南十字星を観察できます。 夜空高く上る南十字星を見たければ、赤道を越えて南半球まで出かけた方が良さそうです。
南十字星が見える季節
南十字星は天の南極に近いため、南半球のニュージーランドなどでは星座が地平線が沈むことなく、 いつでも南の空に見えています。右は下方通過中の南十字星で、十字架が逆さになっています。 ニュージーランドのテカポで撮影した写真です。
しかし、南緯30度よりも北の観測場所では、南十字星は地平線に沈んでしまいます。 条件よく見るには、南十字星が最も高く上ったときに観察した方がよいでしょう。
南十字星が見やすくなるのは、3月から7月にかけてです。 観測場所によって若干時刻が異なりますが、夜半前に星座が南中する5月頃が一番見やすくなります。 この頃、夜暗くなってから南の空を探せば、きっと南十字星が見つかると思います。
できるだけはっきりと南十字星を見るためには、都市の光の影響が少ない場所で観察するとよいでしょう。 また、月明かりが少ない時期を選ぶことも大切です。 ただ海外での夜間移動は安全面の心配もあるため、その点に十分ご注意の上、南十字星を探してみてください。
南十字星の見つけ方
南十字星は明るい星が多い目立つ星座ですが、星を見慣れていない方にとっては、 どれがどの星か分かりにくいかもしれません。 特に海外の観測場所は、暗い星まで星がたくさん見えることが多く、混乱してしまうこともあるでしょう。
南十字星を見つけるに当たっては、まず南の方角を正確に知ることが大切です。 方位磁針を使って、南方向を調べると良いでしょう。
南の方向がわかったら、南の星空を見上げてみましょう。 観測時間にもよりますが、南十字星が見えている時間なら、 南の空にたくさんの明るい星を見つけることができると思います。
下はニュージーランドのテカポ湖で5月上旬の23時頃に南の空を見上げたときの星空の様子です。 南十字星が南中を過ぎて、少し西側に傾いているのがわかります。
南十字星の付近には、ニセ十字と呼ばれる星の並びがあるとおり、 南十字に見間違えそうな星の並びがいくつもあります。 本物の南十字星を探す上でのチェックポイントをご紹介しましょう。
@南十字星(みなみじゅうじ座)の左隣に、ポインターと呼ばれる明るい星が2つ見える。
A南十字星の右側の星(δ星)が、他の3つの星に比べて少し暗い
B南十字星の十字架の左下が、少し暗くなっている(石炭袋という暗黒帯があります)。
C南十字星の右側の星(δ星)の左下に、もう少し暗い星が見える(ε星です。エクボ星と呼ばれています)。
この4つの条件を満たせば、それは間違いなく南十字星でしょう。 念のため、下の南十字星の写真でおさらいしておきましょう。
ニセ十字を見つけてみよう
本物の南十字星が見つかったら、偽物の十字も探してみてはいかがでしょう。 4つ星を結べば簡単に十字形ができるので、ニセ十字と呼ばれている星の形はたくさんあります。 しかし、その中でも本物のニセ十字と呼ばれているものがあります。
本物のニセ十字は、りゅうこつ座とほ座の星から構成されています。 こちらの4つの星は、本物の南十字星より暗く、どれも同じような明るさをしています。 ニセ十字の十字は、本物の南十字に比べると若干大きくなっています。
下がニセ十字と本物の南十字の写真です。 ニセ十字は、南十字星の少し南西で輝いているのがわかります。 南十字星に比べると、ちょっと歪んだ形をしていますよね。
星空散歩を楽しもう
南十字星が見える場所に行ったら、是非他の天体にも目を向けてみましょう。 日本からは見えない星々が、夜空で輝いているはずです。
まず見てみたいのは、みなみじゅうじ座の右隣で輝く「エータカリーナ星雲」です。 この星雲は大変大きく明るいので、肉眼でもぼんやりと存在を確認することができます。 双眼鏡を使うと、うっすらと星雲の形が見えてくるでしょう。 上の写真で、本物の南十字星とニセ十字の間に写っているピンク色の天体が、 エータカリーナ星雲です。
続いて見ておきたいのは、大マゼラン雲と小マゼラン雲です。 どちらも私たちが住む銀河系の伴銀河で、7万5000光年離れた星の集まりです。 まるで雲のように見えることから、マゼラン雲と呼ばれています。 肉眼で見ると、右上写真のように夜空に浮かんだ雲のように見えますので、是非見てみましょう。
双眼鏡があるなら、オメガ星団も見ておきたい天体です。 ケンタウルス座で輝くオメガ星団は、あまりに大きな星の集まりなので、昔は一つの星と考えられていました。 しかし天体望遠鏡が開発されて観察してみると、巨大な星の集まりであることがわかりました。 オメガ星団は全天一大きな球状星団で、双眼鏡でもぼんやりとしたボール状の姿を確認できます。
※ニュージーランドの天体撮影旅行記「テカポ星空旅行記」も是非ご覧下さい。
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