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200mmレンズで楽しむ天体撮影

一般カメラ雑誌でも星空写真をよく見かけるようになり、星空はメジャーな撮影対象の一つになってきたようです。 星空の撮影からさらに一歩進んで、夜空に輝く天体を撮りたいというお話も耳にするようになりました。

夜空には様々な天体が存在しますが、その中でも星雲は比較的大きいため、 カメラの望遠レンズでの撮影が可能で、ステップアップの対象として適した天体だと思います。 このページでは、これまでポータブル赤道儀を使って星空を撮影していた方が、 200mm前後の望遠レンズを用いて天体撮影する方法と必要な機材についてまとめてみました。


200mm望遠レンズを選ぶわけ

望遠レンズので天体撮影のイメージ 星雲や系外銀河の撮影では主に天体望遠鏡が使われますが、天体望遠鏡は焦点距離が長く拡大率が高いため、 赤道儀を使っても、さらに追尾状況を監視するオートガイダーで修正を加えなければ、 星が流れて写ってしまいです。

オートガイド撮影となると必要な機器や知識も増えて、なかなか大変です。 そこで、天体撮影をこれから始める方にお勧めしたいのが、 カメラメーカー各社から販売されている中望遠レンズを使った撮影です。 中望遠レンズの拡大率なら、オートガイダーを使用しなくても、赤道儀任せで、 星をほぼ点像に写すことが可能です。

中でも、焦点距離200ミリ前後のレンズは、大きく広がった星雲の撮影にちょうど良い画角で、 カメラメーカー各社から優れたレンズが発売されています。

最初から撮影に失敗すると楽しくありませんので、まずは成功率が高く、 かつ、満足感も得られる機材で撮影してみるのがお勧めです。 200mmレンズは、本格的な撮影に使用することもでき、 ベテラン天体写真ファンにも愛用されていますので、その後も長く使うことができるでしょう。


中望遠レンズで楽しむ被写体

夜空には、望遠レンズで撮影を楽しむことのできる被写体がたくさん輝いています。 下は、200mmレンズとデジタル一眼レフカメラ(APS-Cサイズ)で撮影した写真の一例です。

望遠レンズの被写体

左は、夏の天体の中でも、ベテラン天体写真ファンに人気の高い「さそり座アンタレス付近の星雲群」です。 写真だけ見ると、天体望遠鏡で大きく拡大した写真のように思えるかもしれませんが、 この星雲はとても大きく広がっているため、望遠レンズの画角で撮影しやすい対象です。

右は、オリオン座の星雲群です。おなじみのオリオン大星雲と馬頭星雲を対角に配置しています。 こちらも冬の定番の構図で、世界中の天体写真ファンがよく撮影しています。

例の通り、望遠レンズでは天体写真は撮れないということは全くありません。 逆に、天体望遠鏡に比べて画角が広い望遠レンズだからこそ撮影できる構図があることがわかります。


単焦点レンズかズームレンズか

ニコンズームレンズ カメラレンズには、焦点距離が固定されている単焦点レンズと、 焦点距離を変更できるズームレンズがありますが、どちらを選ぶべきでしょうか。

一般的に単焦点レンズの方が開放F値が明るく、描写力も高いので、星空撮影には単焦点レンズが推奨されてきました。 しかし、最近のズームレンズは、昔の単焦点レンズよりも性能が良いことも多く、 ズームレンズが一概に駄目ということはありません。 ただ、銀塩フィルム時代の設計の古いズームレンズは、 デジタルカメラで使用すると色収差が目立つケースが多いので、避けた方がよいでしょう。

カメラの趣味を長く続けている方なら、70〜200ミリのズームレンズをお持ちのことが多いと思います。 開放F値は明るい方が有利ですが、F4程度でも天体撮影は可能です。 まずは、お持ちのレンズで気軽に星空撮影を楽しんでみてはいかがでしょう。

もしこれから中望遠レンズを購入するなら、天文雑誌の読者の天体写真コーナーなどのデーターが一つの参考になります。また、このサイトのギャラリーやレビューページでも、 天体撮影に適したレンズをご紹介していますので、ご参考にしていただければ幸いです。


赤道儀について

望遠レンズので天体撮影のイメージ 星空を撮影する方には、小型軽量のポータブル赤道儀が人気がありますが、200mmレンズは案外大きく重いので、搭載重量に余裕のある赤道儀を選びましょう。

カメラとレンズを合わせると、およそ数キロの重さになりますので、搭載可能重量が5キロ以上の赤道儀がお勧めです。 軸周りのバランスを取るためのオプションパーツ(ドイツ式ユニット)が用意されている機種であれば、 より安定して追尾できる可能性が高まり、安心です。

ポータブル赤道儀だけでなく、小型のドイツ式赤道儀も選択肢に入れてみてはいかがでしょう。 小型赤道儀は、各部を分離することはできませんが、望遠鏡を載せることを前提に作られているため、 強度が高い点が有利です。 車で移動して、車のすぐ近くに機材を設置して撮影するなら、小型赤道儀でもユーザーの負担はあまり変わらないでしょう。

なお、赤道儀の性能を表すのに、ピリオディックモーション(PEモーション)という言葉が用いられることがあります。 ピリオディックモーションは追尾精度を表す値で、この数値が小さいほど追尾精度が良く、 星を点像に写せる確率が高まります。 赤道儀を選ぶ際は、チェックしてみてください。


天体撮影用デジタルカメラについて

望遠レンズので天体撮影のイメージ 天体撮影を始めようという方にとって、最初の大きなハードルになるのが、デジタルカメラのフィルター改造ではないでしょうか。

フィルター改造が必要な理由は、デジカメ改造のページで詳しくご説明していますが、 市販のカメラでは夜空で輝く赤い星雲が写りにくいためです。 赤い星雲は大きく、また色鮮やかなので、天体写真の撮影対象の中でも人気が高いです。 赤い星雲を写せないとなると、天体撮影の楽しみが半減してしまうと言っても過言ではないでしょう。

特に、200mmレンズを使った天体撮影のメインターゲットには、赤い星雲が多いです。 機種によっては、他のカメラよりも赤い星雲がよく写るカメラもありますが、 基本的にはデジカメのフィルター改造は必要です。 デジカメのフィルター改造は、天体望遠鏡ショップで行っています。 改造の方法によって若干価格差がありますが、初めはそこまで大がかりな改造でなくてもよいでしょう。

天文ショップによっては、既に天体撮影用にフィルターが交換された製品も販売しています。 このようなモデルを購入すれば、自分のカメラを送って改造を待つことなく、すぐに天体撮影を楽しむことができます。

また、ニコンからは天体撮影専用カメラ「D810A」が販売されており、こちらであれば、そもそもフィルター改造は不要です。 フルサイズ一眼レフカメラですので、30万円以上の価格になっていますが、ベテランからの評価も高く、 性能は折り紙つきです。 メーカー純正品という安心感もあるので、ニコンユーザーで多数のニコンレンズをお持ちなら、 D810Aの購入を検討してみる価値もあると思います。


撮影方法

撮影方法自体は、ポータブル赤道儀や小型赤道儀を使用して広角レンズや標準レンズで星空撮影をするのと全く同じです。 ただ、望遠レンズの場合は拡大率が高くなりますので、 より慎重に撮影しましょう。以下、注意すべき点をご紹介しながら、撮影方法をまとめました。


機材のセッティング

焦点距離が長くなるので、機材のセッティングは、星空撮影の時以上に慎重に行いましょう。

まず、ポータブル赤道儀の取り付け面がなるべく水平になるように、カメラ三脚の脚の長さを調整します。 三脚の座面に水準器が付いていない場合は、ホームセンターで売っている水準器を用意すると便利です。 スマートフォンの水準器アプリも便利でしょう。

赤道儀を水平に設置することによって、重さの偏りが少なくなり、より正確な追尾が可能になります。 また、同じ場所で撮影する場合、北極星の高さがおおよそ合うので、極軸合わせも楽になります。

次に、撮影機材を赤道儀に載せ、極軸望遠鏡やPoleMasterを使用して極軸合わせを行います。 極軸はできるだけ正確に合わせた方が、星が点像に写る確率も高くなります。 極軸を合わせた後は、赤道儀を揺らして極軸をずらしてしまうことのないように注意しましょう。

極軸あわせ

極軸合わせは素通し穴ではなく、極軸望遠鏡を使って行いたい
写真はユニテックSWATシリーズの極軸望遠鏡


ピント合わせ

機材の設置が完了したら、明るめの星を視野に入れて、ピントを合わせましょう。 ピント合わせは、ライブビューモードで行います。 液晶モニターを拡大するルーペを用意しておくと、より正確に合わせることができます。

ズームレンズを使用する場合は、ピント合わせの前に、ズームリングをテープで固定しておきましょう。 ピントが合わせたら、ピントリングにもテープを貼り、リングが動いてしまわないようにします。

ピント合わせのツールとして、バーティノフマスクというツールも販売されています。 バーティノフマスクを使うと、回折スリットで生成された光条を参照することによって、客観的にピントを合わせることができます。 ピント合わせのページに詳細を載せていますので、ご興味があればご覧ください。


構図合わせ

天の川や星座とは異なり、星雲や星団は肉眼ではほとんど見えないため、 星雲等を撮影するときの構図合わせは少々難しくなります。 星雲の形が示された星図を手元に用意しておくと便利です。

目に見えない星雲の構図を合わせる時は、明るい星の位置が参考になります。 星図や作例を参照して、まずはおおよその位置を合わせましょう。 おおよその構図あわせができたら、ISO感度を最高にして短時間露光でテスト撮影を行い、 徐々に構図を合わせていきましょう。

よほど暗い星雲でなければ、星雲の形が液晶モニターにぼんやりと映し出されます。 その画像を見ながら、少しずつ構図を調整しましょう。 もし星雲が映し出されなければ、星の位置を確認しながら構図を合わせます。 文章で書くと大変そうに感じるかもしれませんが、慣れれば数分で構図を合わせられるようになるでしょう。

極軸あわせ

タブレットやノートPCが使える環境なら、星空シミュレーションソフトも便利
写真はステラナビゲーター10の画面
星雲の輪郭が表示されるが、若干位置がずれていることがあるので注意が必要


カメラの設定

星は点像のため、天体写真ではレンズの収差が目立ちます。 そのため、絞りは開放ではなく、1/3〜1段絞るのが一般的です。 まず、開放絞りで写してみて、星像がいびつな場合は、少し絞って写してみるとよいでしょう。

カメラのモードはマニュアルに設定します。 シャッター速度はバルブで、タイマーリモートコントローラーを使って、最初は120〜180秒露光で写してみましょう。 画像のサイズはRAW、もしくはRAW+JPEG、ISO感度はISO3200に設定します。

その他の詳細設定については、長時間ノイズリダクションはオフ、高感度ノイズ低減もオフ、 ピクチャースタイルはニュートラルかフラットを選択しましょう。

星雲をはじめとした天体写真の場合、画像処理が必須となりますので、 後で画像処理しやすいように、カメラ内処理の少ない画像を得ることが大切です。


撮影開始

準備が整ったら、いよいよ撮影開始です。 一枚目の撮影が終わったら、まず画像を確認しましょう。 最初の一枚は、ピント、露出時間の設定、構図のズレなど、撮影者に様々な情報を与えてくれます。 面倒でも、液晶モニターで画像を拡大してきちんと確認しましょう。

最初の一枚が成功であれば、二枚目以降はインターバル撮影で撮影します。 画像処理後の作品の荒れを防ぐため、同じ構図でなるべく多くの枚数を撮影しておきましょう。 明るい星雲なら4〜8枚、淡い星雲の場合は16枚を目安にするとよいでしょう。


星が流れて写ったら

200ミリの望遠レンズでも、10枚連続撮影して10枚とも星が点像に写ることは希です。 例えば、追尾精度の良いユニテックSWAT-200でも、10枚撮影すれば、2枚前後は少し星が流れて写ります。 これはギアとギアが噛み合う箇所によって、進み遅れの誤差量が若干異なるためです。

全数枚、撮影を成功させようと思うと、オートガイド撮影などが必要になり、大変ですので、そこは割り切って撮影しましょう。 私の場合、上記のように10枚で8枚成功するなら、リモートタイマーを10枚に設定して撮影し、 失敗した2枚は使わず、残り8枚で画像処理を行います。

赤道儀の取り扱いに慣れてくると、最初は5割程度の成功率だったものが、徐々に向上し、 機種によっては最高8割程度まで成功するようになります。 ただし、赤道儀の機械精度の限界はあります。 そう考えると、最初に赤道儀を購入するときに、ある程度、精度の良い機種を選んでおくのが良いかもしれませんね。

望遠レンズので天体撮影のイメージ

ビクセンGP2赤道儀で、120秒露光でノータッチ撮影した際の連続写真
小さくて分かりづらいが、5コマ目の画像が若干流れている


揃えておきたい天体撮影用品

夜露除けヒーター

日本は湿度が高いため、撮影を長時間続けていると、レンズに夜露が付いて曇ってしまいます。それを防ぐために、夜露除けヒーターを用意しましょう。 市販もされていますし、個人で自作している方もいらっしゃいます。

ドイツ式ユニット

ポータブル赤道儀は極軸周りのバランスが取れないため、重い機材を載せると追尾が不安定になります。 それを解消するため、ドイツ式ユニットというオプションが用意されている機種があります。 ビクセンのポラリエ用とユニテック社のSWATシリーズ用のオプションがよく知られていますが、 他社製にも流用できる場合があります。 自作も可能ですが、ガタがあると意味がありませんので、自作する場合はその点に注意しましょう。


まとめ

星雲の撮影というと、大きな天体望遠鏡が必要と思われるかもしれませんが、実際にはカメラの望遠レンズで撮影を楽しんでいる方も多いです。 カメラレンズなら、全体の機材は比較的コンパクトで、初心者の方にも扱いやすい大きさです。

星空撮影に慣れてきたら、一歩進んで、是非星雲の撮影にもチャレンジしてみてください。 きっと、星空の綺麗な場所に出かけるのが、さらに楽しくなると思います。