天体望遠鏡を使った撮影の方法
宇宙で輝く星雲や銀河を大きく映し出したいと思ったら、直焦点撮影の出番です。 直焦点撮影は、カメラレンズの代わりに天体望遠鏡を使用する撮影方法です。 何百ミリ、時には何千ミリもの焦点距離になるので、難易度が高い撮影方法ですが、 星雲や銀河を撮る天体写真ファンに人気があります。
日本だけでなく世界中の天文ファンが、直焦点撮影を使って素晴らしい宇宙の写真を撮り続けています。 またアマチュアだけでなく、ハッブル宇宙望遠鏡やすばる望遠鏡も同じようにして深宇宙を撮影しています。 宇宙に散らばる星雲や銀河を撮影してみたくなったら、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。
直焦点撮影で広がる対象
星雲や銀河の撮影で人気のカメラレンズは、焦点距離100ミリから300ミリ前後のレンズです。 一方、直焦点撮影によく使われる天体望遠鏡は、500ミリから1500ミリ前後の焦点距離があります。
直焦点撮影は拡大率が高いため、カメラレンズを使った撮影では、 小さすぎて写らなかった対象までもが、撮影できる対象になります。 直焦点撮影を始めると、天球上には、撮影できる天体がたくさんあることに気付かれるのではないでしょうか。
直焦点撮影なら、天の川銀河系に浮かぶ色鮮やかなガス星雲から、銀河系を離れた遠い宇宙の姿まで撮影できます。 もしあなたが、とても大きな天体望遠鏡をお持ちなら、それこそ宇宙の果てまで撮影を楽しめるでしょう。
焦点距離が異なる天体望遠鏡を使えば、撮影対象は一段と広がります。 撮影対象は無限の広がりを持つ宇宙ですから、極端に言うと被写体は無限に有るとも言えるかもしれません。
撮影に必要な天体望遠鏡
直焦点撮影は、天体望遠鏡をカメラレンズの代わりに使って撮影する方法です。 望遠鏡の対物レンズ(もしくは主鏡)の焦点を使って星空を撮ることから、この呼び名があります。
天体望遠鏡とカメラを繋げば、どのような組み合わせでも直焦点撮影にはなりますが、 天体望遠鏡の中にも直焦点撮影に向いている製品と、向いていない製品があります。 最高の性能を求めると、高価な買い物になってしまいますが、 ある程度の製品を購入しておくと、末永く使えるメリットがあります。
これから直焦点撮影を始めるなら、色消しレンズ(EDレンズ)を使った屈折望遠鏡がお勧めです。 口径は8センチ〜10センチ程度のものが扱いやすいでしょう。
様々な機種がありますが、望遠鏡のオプションに「レデューサー」と呼ばれる撮影用のコンバーションレンズが用意されているかで、 直焦点撮影に使えるかどうかを判断するとよいでしょう。
ちなみに右上の写真は、天体写真ファンに人気の有るタカハシFSQ-106ED望遠鏡です。 50万円もする高価な望遠鏡ですが、最高峰の性能を持っていますので、 天体撮影を本格的にはじめてみたいならお勧めです。 なお、関連ページの天体写真向き天体望遠鏡の選び方も参考にしてください。
天体撮影に必要なカメラ
天体望遠鏡に取り付けるカメラは、デジタル一眼レフカメラがお勧めです。 昔ながらの銀塩フィルムカメラももちろん使用できますが、撮影の難易度が高くなってしまいます。
一般撮影ではミラーレス一眼の人気が出ていますが、 天体望遠鏡に接続するマウントアダプターは、デジタル一眼レフカメラ用がほとんどのため、 今のところはデジタル一眼レフカメラの方が使いやすいでしょう。
最近、デジタル一眼レフカメラに代わって、天体撮影用のCMOSカメラを使うユーザーが増えています。 天文用CMOSカメラはラインナップも豊富ですが、最初からCMOSカメラを使うのは、少々ハードルが高いと思います。 これから直焦点撮影を始めるなら、デジタル一眼レフをまずは使ってみてはいかがでしょう。
なお、天体撮影用のデジカメ一眼レフカメラは、高級機種でなくても安価な入門モデルで十分ですが、 赤い星雲を写すにはフィルターの改造が必要です。 詳細は、天体写真向きデジカメの選び方ページをご覧下さい。
赤道儀は機材に合ったものを
直焦点撮影の場合、カメラレンズを使った星空撮影よりも載せる機材が大きく、 重くなるため、赤道儀もより丈夫なものが必要になります。
赤道儀の大きさのクラスで言うと、中型赤道儀クラスが直焦点撮影によく使われています。 具体的には、タカハシEM-200赤道儀やビクセンSXP赤道儀が天体写真ファンに人気があります。
ビクセンAP赤道儀やGP2赤道儀をはじめとした、小型赤道儀でも直焦点撮影は可能ですが、 オートガイド撮影を始めるようになると、撮影用の望遠鏡の他に、追尾状況を監視するガイド鏡を同架する必要が出てきます。
末永く天体撮影を楽しむご予定なら、搭載重量に少し余裕がある赤道儀を選んでおくのがお勧めです。
天体望遠鏡にカメラを取り付けよう
天体望遠鏡にデジカメを取り付ける前に、接続リングなどを確認しておきましょう。
天体望遠鏡は、元々は肉眼での観望用に作られているため、カメラを取り付けるようにはできていません。 そのため、カメラを取り付けるには、オプションで用意されているアダプターが必要です。
また、望遠鏡の機種によっては、F値を明るくするレデューサーレンズや、像を平坦にするフラットナーレンズと 呼ばれるコンバージョンレンズが発売されています。 最初から用いる必要はありませんが、こうしたレンズを使えばより美しい写真が撮れることを覚えておきましょう。 また、撮影用の天体望遠鏡を選ぶ上で、こうしたアダプターやレンズが用意されているかもポイントになります。
右上の画像は、天体望遠鏡にカメラを取り付けた様子です。このように天体望遠鏡とカメラは接続されます。 始めて撮影する前には、ご自宅で望遠鏡を床などに置いて、マニュアルを見ながら練習しておきましょう。 暗いところで、慣れない取り付け作業を行って、誤ってカメラを落としたら大変ですからね。
まずは赤道儀に任せて撮影してみよう
赤道儀を設置した後、天体望遠鏡を載せてデジカメを取り付けます。
機材のセットアップが整ったら、まずは赤道儀に追尾を任せて星空を撮影してみましょう。 シャッターを切る前に、極軸が合っているかどうかと、ピントの確認だけはしておきましょう。 極軸とピントがずれていては、いくらがんばってもよい写真は撮れません。
最初に写す対象としては、夏ならいて座の干潟星雲、 秋ならアンドロメダ銀河、冬 ならオリオン大星雲といったところがが撮影しやすくてお勧めです。 春は小さな天体ばかりですが、その中ではおおぐま座のM81,M82銀河が写しやすく てよいでしょう。 撮影に慣れてくると「次はどれを撮ろうかな?」と考える時間も楽しい一時になってきます。
撮りたい天体をカメラのファインダーの中に入れ、構図を合わせたら、まずはデジカメの感度をISO3200程度にして、 2〜3分の露出時間で撮ってみましょう。デジカメの画質モードはRAWがよいでしょう。
この程度の露出時間なら、赤道儀の極軸さえきっちり合わせておけば、 星はほとんど流れないと思います。 初めは長時間ノイズリダクション機能もオンにして、気楽に撮影してみましょう。
撮影が終わったら、背面モニターで撮影画像を確認してみましょう。 上手く赤道儀が星を追尾できていたら、きっとアンロメダ銀河や星雲が、モニターにボンヤリと写し出されているはずです。 初めて見るとちょっと感動してしまうと思います。(右はこの撮影方法で写したアンドロメダ銀河の写真です)
昔の銀塩カメラと比べると、デジカメは撮影画像を背面モニターですぐに確認できるのが便利です。 写し出された画像を拡大表示することもできますから、ピントが甘いことや、星が流れているということがすぐにわかり、その場で フィードバックすることができます。
銀塩写真時代は、家に帰ってフィルムを現像するまで失敗がわかりませんでしたが、 デジタルカメラの登場で、撮影しながらどんどん上達していくことが可能となり、天体写真がより簡単になりました。
もし星が大きく流れてしまっていたら、極軸が合っているかどうかもう一度確認しておきましょう。 極軸合わせで一番起こりやすいミスは、北極星ではない星を誤って導入してしまっていることです。 もう一度、北斗七星やカシオペア座を使って、北極星の位置を再確認しておきましょう。
なんとなく星がポッテリしていて呆けたように写っているなら、ピントがずれているのかもしれません。 もう一度ピントを合わせ直しておきましょう。 また、ピント合わせの方法にも書いていますが、ピントの位置は 気温によって変わります。夜中に大きく冷え込んだら、ピント位置を再確認しておくのがお勧めです。
直焦点撮影は少し経験が必要で難しい面もありますが、まずは気楽に撮影を始めてみましょう。 そして撮影に慣れてきたら、より正確に星を追いかける撮影方法「ガイド撮影」にも チャレンジしてみてください。
より高度な撮影
直焦点撮影に慣れてきたら、デジカメのノイズリダクション機能をオフにして、 撮影画像とノイズ画像(ダークフレーム)を別々に撮るようにしてみましょう。 こうすると、本撮影後にノイズリダクションする時間を節約できます。
デジカメに内蔵されている長時間ノイズリダクション機能は、長時間露出で撮影した後、それと同じ時間のノイズ画像を所得し、それを撮影画像から減算することで ノイズを低減しています。これをパソコン上でやってしまおうというのが、この撮影画像とノイズ画像を別々に撮るということです。
例えば、デジカメを使って天体をISO1600、10分露出で8コマ明け方まで撮影するとします。 8枚目の撮影が終わった時、薄明が始まって撮影時間が終了となります。 それから、カメラにフタをして同じ枚数ダークフレームを撮影します。 そして家に帰ってきてから、パソコン上で撮影画像からダークフレームを減算してノイズを低減するというわけです。
この時注意したい点は、天体撮影時とダークフレーム所得時のISO感度と露出時間を、同じ設定で撮ることです。 いろいろ変えてしまうと、様々な種類のダークフレームを用意しなければなりません。 「私はISO1600で10分露出を基本にする」というように、自分の中で基準を決めておくのがお勧めです。 なお、画質モードは必ずRawモードで撮っておきましょう。 JPEGモードだと、後でノイズをソフトウェア上でノイズを減算することができなくなります。
撮影画像からダークノイズを減算するには、専用のソフトウェアが必要です。 天体写真用のソフトウェアとしては、RAPとアストロアーツ社のステライメージが人気です。 上記は有償ソフトですが、無償のRStackerというソフトもあり、私も愛用しています。 画像処理のページでは、それらのソフトの使用方法を交えながら、画像処理の方法もご紹介しています。
番外編:天体望遠鏡を使うわけ
直焦点撮影方法では、カメラレンズの代わりに天体望遠鏡を使います。 なぜ天体望遠鏡を使うかと言えば、焦点距離が300mm以上の望遠レンズとなると、 非常に高価な上、レンズの種類も少ないためです。
その点、天体望遠鏡をレンズ代わりに使えば、簡単に超望遠の世界が得られ、カメラレンズに比べると安価です。 もちろんF値が暗くなってしまうという弊害がありますが、最近では写真撮影に特化した明るい 撮影用望遠鏡も登場し話題を呼んでいます。
それにEDレンズなどを使った天体望遠鏡は、カメラレンズに比べると像がシャープなことが多いということも理由の一つです。 それは、カメラレンズは近くから無限遠まで焦点が合うように、たくさんのレンズから構成されているためです。 天体写真の世界では、無限遠の像だけが重要になってくるので、これはデメリットになってしまいます。
そんなことから、みなさん天体望遠鏡とデジカメをくっつけて、天体写真撮影を楽しまれています。 人気のある撮影地に新月頃の晴れた夜に行けば、たくさんの方が様々な望遠鏡を持ち寄って星空を撮影されています。 現地でのアドバイスはとても貴重ですから、機材を購入前に、 天文ファンが集まる場所に出かけてみるのもお勧めです。
ステライメージ8ステライメージ8は、天体写真専用の画像処理ソフトです。 冷却CCDカメラやデジカメの画像を扱うには最適なソフトで、上記で紹介したダーク減算の他、 フラット補正といった天体写真の画像処理では欠かせない処理を行えます。 新しいデジカメにも素早く対応してくれるので、いろいろな種類のRAW画像を扱えます。 32ビットという広い演算処理を使えるので、画像を劣化させることなく処理を行えます。 また、シャープフィルターや色彩強調をはじめとしたコマンドも多数用意されているので、アレンジした処理も楽しめます。 画像処理ソフトの定番Photoshopと比べると、マスク処理などで使いづらい点もありますが、 天体写真を処理するなら用意しておきたいソフトです。 |