冷却改造デジタル一眼レフカメラ
天体写真ファンの間では、デジタル一眼レフカメラのフィルター改造が盛んに行われています。
最近は、天体用フィルターへの改造だけでなく、撮像素子自体をペルチェ素子を使って冷却する機構を取り入れた、
冷却改造デジタル一眼レフカメラも登場しています。
撮像素子に使われているCCDやCMOSセンサーを冷却すると、ノイズが減ることは以前から知られていましたが、 この冷却改造によってどれだけ長時間ノイズや高感度ノイズが減るのでしょう。 このページでは、キャノンEOS50Dを冷却改造したモデルを使って、ノイズ発生の様子を検証してみました。
冷却改造 キヤノンEOS50Dの概要
キヤノンEOS50Dは、1,510万画素のCMOSセンサーが搭載されたデジタル一眼レフカメラです。 中級機らしいしっかりした作りのデジタル一眼レフカメラで、ハイアマチュアに人気が高いモデルです。
キヤノンEOS50Dを冷却改造したのが、右上の写真の「Astro 50D」と名づけられたモデルです。 韓国のセントラルDSが冷却改造しているモデルで、日本では協栄産業が取次代理店となっています。 この他にも、国内メーカーからSEO-COOLED 50Dというモデルが天文ショップを通じて販売されています。
ASTRO50Dの各部の写真は以下の通りで、キャノンEOS50Dの横に巨大な冷却ユニットが取り付けられています。 カメラ本体の側面に備え付けられていたEOS50Dの端子類は、この冷却ユニットの底面に取り付けられています。
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冷却時間と冷却ファン
デジカメのセンサー冷却に使われる冷却ユニット自体にスイッチはなく、電源ケーブルを差し込むと冷却が始まり、抜くと電源オフとなります。 カメラに付属している温度計を使ってセンサー温度を見てみると、電源を入れてからわずか数分で外気温マイナス20度程度まで下がります。 その後、若干温度が上昇した後、センサー温度は外気温マイナス18度前後で安定します。 非常に素早い冷却で、初めて使った時は、その冷却の早さに驚くほどです。
巨大な冷却ファンが高速で回転するため、風切り音はかなりの大きさです。 冷却ファンから送られた風は、暖かい風となって銅色のヒートシンクから出てきます。 この冷却ファンの消費電力は相当大きく、ペルチェ素子と合わせた全体の最大消費電力は3.5A/DC12Vということです。
冷却改造デジカメの長時間ノイズ
冷却改造の効果を調べるため、冷却ファンをオンにしたときと、そうでないときの長時間ノイズ画像を撮影して、 そのノイズの出方を比較してみました。 撮影時の室温は約25度。デジカメの感度はどちらもISO1600に設定し、露出時間600秒で撮影を行っています。
以下がその比較画像です。撮影画像が大きいため、比較画像は中央部をピクセル等倍したものです。
冷却ユニットOFF | 冷却ユニットON |
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ノイズの出方を比較しやすいように、レベル補正を使って、画像を約5倍に強調した長時間ノイズ画像を下に載せてみました。 どちらも上記と同じく、中央部のピクセル等倍画像です。
冷却ユニットOFF | 冷却ユニットON |
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強調した画像を比較してみると、冷却機能がONの画像の方が、輝点ノイズが減っていることがよくわかります。 とはいうものの、冷却デジカメの画像でもかなりのノイズが乗っており、ノイズレスの画像とは言い難いところです。
このノイズ画像を撮影した時の外気温は25度前後ですから、冷却ファンをオンにしても撮像素子の温度は5~8度前後です。 この比較画像の結果から、冷却デジカメと言えども夏場の暑い時期にはノイズが増えてくるのがわかります。 こうした気温の高い時期には、多数の撮影画像をコンポジットするなどの対策が必要でしょう。
下は気温15度の時に、冷却機能ONで撮影した長時間ノイズ画像です。 左側がそのままのピクセル等倍画像で、右側はそれを約5倍に強調した画像です。
長時間ノイズ元画像(冷却ON) | 強調後(冷却ON) |
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これと気温25度の時の画像と比較すると、ノイズが著しく減っているのがわかります。 夏場でも、高原などの標高が高い撮影地に行けば、気温15度というのは実現可能です。 こうした場所を選んで撮影すれば、冷却デジカメの威力を存分に発揮できるでしょう。
また、気温が0度近くまで下がる冬場なら、撮像素子の温度をマイナス15度以下にまで下げることも可能です。 ここまでくれば、ノイズ減算などの処理を経なくても、S/N比の高い画像を得られるでしょう。
冷却改造デジカメの消費電力
冷却改造されたデジタル一眼レフカメラは、ノイズが少なく魅力的な機材ですが、 カメラ本体のバッテリーの他に、冷却機構用の外部電源が必要になります。
このキャノンEOS50D冷却改造モデルの消費電流は、メーカー公表値で3.5A程度と大きく、ノートパソコン並の消費電流です。 撮影のため、一晩中、冷却ファンを動かそうと考えると、容量の大きなバッテリーが必要となります。
冷却が定常状態になると消費電流が減るという噂もありますが、真偽の程はよくわかりません。 そこで、実際にどの程度消費しているのかを電流計を使って測定してみました。 なお、電源として使用したのはDC12Vのディープサイクルバッテリーです。
冷却ファンを起動した直後 | 約3.05A | ![]() |
起動1分後 | 約2.89A | ![]() |
起動10分後 | 約2.69A | ![]() |
起動30分後 | 約2.68A | ![]() |
上記の結果を見ると、冷却開始後は確かに消費電流値が一時的に大きくなりますが、 その後も同じ程度の電気を消費していることがわかります。 このキャノンEOS50Dカメラについて言えば、常時3A程度の電流を消費すると言えそうです。 上記の結果を考えると、撮影中は容量の大きなACアダプターや、大容量のバッテリーから電源を取っておくのが良さそうです。
フルサイズの冷却改造デジカメ
冷却改造デジカメは、センサーサイズの小さなAPS-C機が改造されるのが主流でしたが、
天体写真のクオリティが向上するにつれ、フルサイズカメラの冷却改造を望むユーザーが増えてきました。
そうしたユーザーの要望にあわせて、2014年頃、キヤノンEOS5D MarkIIの冷却改造モデルが登場しました。 元々ノイズが少ないフルサイズセンサーを冷却しているので、非常に滑らかな画像が得られると評判になりましたが、 国内に取扱店がなかったこともあり、それほど普及は進みませんでした。
その後、キヤノンEOS6Dを冷却改造したモデルが登場します。 従来の改造方法と異なり、センサーをデジカメ本体から取り出して、チャンバー内に固定するという新機構が取り入れられ、 より天体撮影向きになりました。 冷却時の音も小さく、消費電流も少ないので、キヤノンEOS6DMarkIIが登場した現在でも、天体写真ファンから人気があるモデルです。
冷却改造デジカメの耐久性
新たに冷却デジカメを購入するに当たって気になるのが、冷却改造されたカメラの耐久性です。 まだ冷却デジカメが市場に登場してそれほど経っていませんので、どれだけの間、使用できるかは未知数と言えます。 「故障した」という話もちらほら耳にする一方、「問題が起きたことは一度もない」という声もよく聞きます。
カメラメーカーが作ったデジタル一眼レフカメラに、後から冷却装置を取り付けるのですから、カメラに無理がないとは言いきれません。 冷却デジタル一眼レフカメラは、そのリスクを考えて、購入する必要があると思います。
キャノンEOS50Dのスペック
名称 | キャノンEOS50D |
有効画素数 | 約1510万画素 |
撮像画面サイズ | APS-C(22.3x14.9mm) |
記録メディア | CFカード |
連続撮影枚数 | 最高6.3コマ/秒 |
ファインダー視野率 | 約0.95倍 |
ISO感度設定範囲 | ISO100~3200(拡張機能ISO6400,ISO12800) |
液晶モニター | 3.0型,約92万ドット |
ライブビュー機能 | あり |
重量 | 730グラム |