キヤノンEF200mm F2L IS USM レビュー
キヤノンEF200mm F2L IS USMは、開放F値が2と非常に明るい望遠レンズで、2008年春に発売が開始されました。
キヤノンEF200mm F2L IS USMレンズは、1988年に販売が開始され、製造が終了していたEF200mm F1.8L USMの後継機となるレンズで、 UDレンズに蛍石レンズを加えることで、より一層の性能アップを図ったモデルです。 しかし、価格も45万円から85万円とほぼ2倍となってしまいました。
私はこのレンズを星空撮影を中心に使用しています。 200mmという天体望遠鏡の直焦点よりも短い焦点距離は、淡く広がった星雲や彗星を写すのに好都合で、 F2という明るさと共に使い易いと感じています。 今回、このレンズを使用して撮影した星空の画像と共に、このレンズの性能を改めて検証してみました。
キヤノンEF200mm F2L IS USMの概要と外観
キヤノンの明るい200ミリレンズは、星野撮影ファンにとって憧れの中望遠レンズと言えます。
キヤノンが初めて焦点距離200ミリでF2クラスの明るさのレンズを発表したのは、1988年のEF200mmF1.8L USMです。 その1年後にキヤノンは、マニュアルフォーカスのキヤノンNew FD200mm F1.8Lを発表しています。 どちらも彗星の撮影等に人気の高いレンズで、特にNewFD200mm F1.8Lレンズは生産期間が極めて短かったので、 一部のカメラファンの間では未だに人気があります。
現行のキヤノンEF200mm F2Lレンズは、前モデルに比べるとわずかに開放F値は暗くなったものの、 EF200mm F1.8Lで不評だった電子式マニュアルフォーカスを改め、通電しなくてもフォーカスできるようになっています。 また、シャッタースピード換算で約5段分の高性能手ブレ補正機構を搭載し、手持ち撮影に柔軟に対応しています。 さらにボディにマグネシウム合金を用い、前モデルに比べて500グラムの軽量化も達成しています。
キヤノンEF200mm F2L IS USMのレンズボディは、他の高性能望遠レンズと同様、頑丈で妥協のない造りになっています。 ボディ側面には、手ぶれ防止機能ボタンやMF切り替えスイッチに加え、 AFストップボタンやフォーカスプリセットボタンなども装備されています。
フィルターには後部差し込みの形式が採用されています。 この差し込みフィルターには、標準では開口径52mmのドロップインタイプのゼラチンフィルターホルダーが装備されています。 スクリューフィルターホルダーはオプションで用意されていますが、 このクラスのレンズなら標準でスクリュータイプを装備して欲しいところです。
キヤノンEF200mm F2L IS USMレンズの最短撮影距離は1.9mです。 また、製品にはフードと専用トランクケースが付属します。 レンズには防塵・防滴構造が採用されています。
一般撮影での印象
キヤノンEF200mm F2L IS USMは、そのボケの美しさから、ポートレート撮影を楽しむカメラマンに人気のあるレンズです。
焦点距離100ミリ前後のレンズに比べて、ある程度モデルとの距離が取れるのも魅力です。
私自身はあまり人物を撮影しませんが、背景の柔らかいボケはこのレンズの優れた点の一つだと思います。
(右はこのレンズで撮影した写真です。クリックすると大きな画像が開きます)
レンズ本体で2500gと重いので、気軽に持ち出すというわけにはいきませんが、 高性能な手ブレ補正機能が付いているため、比較的遅いシャッター速度でも手ブレを気にせず撮影できます。 ただ開放ではピントが非常に浅く周辺減光も大きいため、通常は2/3段ほど絞って使用しています。
キヤノンから発売されているテレコンバーター「EXTENDER EF1.4×III」を使用すると、焦点距離280mmF2.8のレンズとなります。 像の劣化もそれほど目立たず、ほぼサンニッパと同じ性能になりますので、 テレコンバーターとも合わせてよく使用しています。
星空撮影での印象
周辺減光の様子を調べるために、キヤノンEF200mm F2L IS USMとフルサイズのデジタル一眼レフカメラ、 キヤノンEOS5DMarkIIを使用して星空を撮影してみました。
下がその画像で、左は絞り開放で撮影した画像、右は2/3段絞ってF2.5で撮影したもの、 その下はF2.8とF4に絞って撮影したオリオン座三ツ星付近の写真です。 露出時間は背景濃度が同じ位になるよう調整しています。 また、どれも周辺減光補正などの画像処理はしていません。 撮影には小型赤道儀を使用しました。
絞り開放で撮影 | 絞りF2.5で撮影 |
拡大画像へのリンク | 拡大画像へのリンク |
絞りF2.8で撮影 | 絞りF4で撮影 |
拡大画像へのリンク | 拡大画像へのリンク |
小さな画像では分かりづらいですが、絞り開放の画像では、中央部は明るく、周辺部はかなり暗くなっています。 それと比較すると、2/3段絞った画像では、中央集光が減少しているのがわかります。
また、1段絞ると明るさはよりフラットになり、2段絞ると最四隅を除いて光量はほぼフラットになります。
これらの結果を考えると、星空撮影では周辺減光が気になることが多いので、少なくても2/3段は絞って撮影した方が良さそうです。
※リンク先の大きな画像もご覧下さい。
星像と色収差
続いて気になるのは星像のシャープさです。 星空撮影ファンにとっては、特に周辺の星像が気になるところです。 それぞれのF値に絞ったときのピクセル等倍画像を下に掲載しましたのでご覧下さい。
絞り開放で撮影 | 絞りF2.5で撮影 | 絞りF2.8で撮影 | 絞りF4で撮影 | |
中心像 | ||||
右上隅の星像 | ||||
左下隅の星像 |
中心像は、絞り開放では若干甘いようですが、2/3段絞るとシャープになります。 明るい星の周りのパープルのフリンジは開放でもほとんど気にならず、色収差は良好に補正されているようです。 一段絞ればよりシャープになりますが、2/3段絞った時(F2.5)との差はほとんどありません。
写野の隅の星像を見ると、絞り開放でも星像はほぼ円形を保っています。 この周辺星像は絞るにつれ改善しますが、それほど大きな差はありません。 コマ収差が良好に補正されているのでしょう。
右上隅と左下の周辺星像を見比べると、若干ボケ方が異なっているのがわかります。 カメラボディとの平面性(スケアリング)が僅かにずれているためでしょう。 キヤノンEF200mm F2Lは非常に明るいレンズですので、このようなスケアリングのズレには敏感です。
天体撮影用カメラと組み合わせて
キヤノンEF200mm F2Lレンズを天体撮影用の冷却CCDカメラ Moravian G3-16200に取り付けて、 天体撮影を実施しました。
上画像は、セットアップした機材の様子です。G3-16200カメラには、EOSマウントアダプターを取り付け、 バックフォーカスをEOSの44ミリと合わせています。 上の写真ではガイドスコープの上にEF200ミリレンズを載せていますが、マッチプレートを使って、 レンズとガイドスコープを並べる方が安定するように思います。
下画像は、この組み合わせで撮影した、とかげ座の散光星雲Sh2-126の写真です。 淡い星雲ですが、EF200ミリレンズの明るさに助けられ、短時間で明瞭に写し出すことができました。 なお、G3-16200カメラには、APS-Hサイズのセンサーが用いられていますが、 このセンサーの大きさなら、画角隅まで星像はほぼ真円を保っていました。
最近、デジタル一眼レフカメラに代わって、冷却CMOSカメラが天体撮影用として人気が出てきました。 中でもZWO社のASIシリーズは、天文ファンから「赤缶」とも呼ばれ、 天体写真界でのシェアを伸ばしています。
ZWO社からは、EFレンズ接続用のマウントアダプターが発売されています。 EFアダプターを利用して、冷却CMOSカメラと組み合わせれば、 天体望遠鏡とはまた違った画角で撮影を楽しめると思います。
キヤノン EF200mm F2Lを使い易くするアイテム
キヤノンEF200mm F2L IS USMには、標準装備で三脚座が取り付けられていますが、 私はRRS社(Really Right Stuff)のアリミゾシステムを使っているので、それに合わせた三脚座に交換しています。 下の左写真がそのRRS社の三脚台座で、標準付属のものを根元から取り外して交換しています。
また、このレンズにはフードの上から被せる革製のレンズキャップが付属してきますが、 フードを反対に取り付けないとキャップができないなど不便に感じます。 そこで、AquaTechというメーカーから発売されているシリコンゴム製のキャップをレンズにはめています。 軽く付けていると外れやすいのが難点ですが、これでフードを取り付けなくてもキャップができるようになりました。
まとめ
キヤノンEF200mm F2L IS USMレンズは開放F値が明るいので、ファインダー像が明るく、 天体撮影時に暗い星まで確認することができます。 デジカメの最高感度と開放絞りを組み合わせれば、ほんの数秒で星々が写って来るので、 試写しての構図確認も容易です。 このレンズの明るさを生かせる淡い星雲や、時間が限られた彗星撮影に重宝しています。
しかし大きなレンズが使われているため、重量は最新型のサンニッパ以上です。 フルサイズデジタル一眼レフカメラと組み合わせるとかなりの重量になるので、 ポータブル赤道儀と組み合わせて撮影するのは難しく、安定した撮影のためには、 小型赤道儀が必要でしょう。
撮影画像については、開放絞りでは星像が若干甘くなるものの、 画面隅まで良好な星像を結んでくれるので、使用していて気持ちの良いレンズです。 しかし、スケアリングにはシビアで、四隅の星像が異なることがよくあります。 また、手ぶれ防止装置は切って撮影していますが、 この可動部分が星像に若干の影響を及ぼしているのではないかと思っています。
キヤノンEF200mm F2L IS USMのスペック
名称 | キヤノンEF200mm F2L IS USM |
焦点距離 | 200mm |
レンズ構成 | 12群 17枚 |
絞り羽枚数 | 8枚(円形絞り) |
最短撮影距離 | 1.9m |
フィルター径 | 52ミリ(後部差し込み) |
大きさ | 208m×128mm(最大径) |
重量 | 2520g |
EF200mm F2L IS USM 単焦点レンズこのクラスで最高の明るさを持つ、F2の大口径望遠レンズ。 UDレンズと蛍石レンズを採用し、色収差を高レベルで補正しています。 高価なレンズですが、キヤノンの明るい200ミリレンズは以前から天体写真ファンに人気があります。 開放F値が2.8の単焦点レンズ「EF200mm F2.8L II USM」も天体ファンに人気がありますが、 こちらは1996年に発売が開始されたため、設計が古く、収差が若干目立ちます。 そろそろリニューアルして欲しいところです。 |