星空撮影用 ソフトフィルターの比較と選び方
星空撮影にソフトフォーカスフィルター(以下:ソフトフィルター)を使用すると、 星が適度ににじみ、華やかな印象の星空写真に仕上がります。 明るい星ほど大きくにじむので、星座の形がわかりやすくなり、 ソフトフィルターは、星空撮影時の必須アイテムになっています。
このページでは、市販されているソフトフィルターについて、 実際に撮影した画像を交えながら、フィルターを選ぶ際のポイントと、 ソフトフォーカス効果について考察します。
ソフトフィルターの効果
まず、ソフトフィルターを使って撮影した写真とソフトフィルターを使わずに撮影した写真を比べて、 ソフトフィルターの効果を確認してみましょう。 下の画像は、デジタル一眼レフカメラとカメラレンズを使用して撮影した、冬の星空の比較写真です。 ソフトフィルターは、ケンコーの「PRO1D プロソフトン[A](W)(以下:PROソフトンA)」を使用しました。
どちらの写真も、構図の中央にオリオン座が写っていますが、ソフトフィルターを使わずに撮影した写真は、 写っている星の大きさがほとんど同じで、星座の形がわかりにくく感じます。
一方、ソフトフィルターを使って撮影した写真では、明るい星ほど大きく写っているため、 オリオン座が中央に写っていることがすぐにわかり、冬の星空写真だと判断できます。 また、星の色もフィルター無しの写真と比べて、色彩豊かに感じられます。
私たちが肉眼で星空を見ている時は、明るい星は、暗い星に比べて、大きく輝いているように感じています。 ですので、ソフトフィルターを使って撮影した写真の方が、より人の感覚に近く感じるように思います。
銀塩フィルムカメラで撮影していた頃は、ソフトフィルターを使わなくても、 銀塩粒子にイラジエーションが発生するため、明るい星は暗い星に比べて大きく写りました。
しかし、高画素のCCDやCMOSセンサーが撮像素子に用いられたデジタルカメラが主流になり、 レンズの性能も向上すると、銀塩フィルム時代のようなにじみがほとんど発生せず、 どの明るさの星もほぼ同じ大きさに写るようになりました。 そのため、デジタル星空撮影では、ソフトフィルターがよく使われるようになりました。
星空撮影に適したソフトフィルター
様々なメーカーのソフトフィルターが販売されていますが、星空撮影に適した製品は、それほど多くありません。 星空撮影に使う際に重要なポイントは、まず、星が綺麗に丸くボケるかどうかです。
実際にいくつかのソフトフィルターを付けて星空撮影してみると、星が楕円形に写ってしまう製品があります。 せっかくポータブル赤道儀を使って追尾撮影しても、ソフトフィルターの影響で、 星が楕円に写ってしまっては追尾している意味がありません。 星を写すなら、星が綺麗に丸くボケるソフトフィルターを選びましょう。
※星空撮影に適したソフトフィルターでも、レンズの収差のため、写野端の星は楕円状に写ります。
次に重要なのは、フレアやゴーストの発生です。 フィルターのコーティングによっては、明るい星の周囲に白っぽいフレアが大きく発生したり、 構図内に星のゴーストが写り込んだりする場合があります。 ソフトフィルターですので、全くフレアが発生しないということはありませんが、 なるべく良質のコーティングが施されているフィルターを選ぶことも、購入時のポイントになります。
様々なソフトフォーカスフィルター。
銀塩フィルムカメラの頃は、ブラックミストフィルターも使用していたが、
デジタルカメラに使うと星の形がいびつになる
おすすめのソフトフィルター
星空撮影用としては、ケンコーのPROソフトンAが大変人気があり、デジタル星空撮影の定番フィルターと言われています。 私も、星空撮影にケンコーのソフトフィルターを愛用していますが、 24ミリ前後の広角レンズを使った際のボケ具合がちょうどよく、使いやすいと感じています。
ケンコーのフィルター以外では、LEE社のポリエステル製のソフトフィルターが、 ベテラン天体写真ファンを中心によく使われています。 LEE社のソフトフィルターは、No.1からNo.5の5枚セットになっており、 No1がソフト効果が最も弱く、数字が増えるにつれ、ボケ量が大きくなります。
カメラメーカーのニコンが製造・販売している「ニューソフトフォーカスフィルター」も、 星空撮影に使いやすいソフトフィルターの一つです。 星空のボケ具合は、ケンコーのPROソフトンAと同程度ですので、広角レンズと組み合わせると使いやすいでしょう。
ケンコーPRO ソフトンAとニコンのニューソフトフォーカスフィルター
ソフトフィルターの星像比較
上で紹介した3社のフィルターを使って、実際に星空を比較撮影し、ソフト効果を確認してみました。 なお、撮影にはフルサイズデジタル一眼レフカメラ「ニコンD810A」と、 シグマのカメラレンズ「24mm F1.4 DG HSM 」を用いました。 また、全体画像ではソフト効果がわかりにくいので、すべての画像は、オリオン座の部分をトリミングして掲載しています。
まず、ケンコーのPROソフトンAとニコンのニューソフトフォーカスフィルターを比較してみましょう。
※レンズ絞り値F2.5、露光時間30秒、ISO3200、赤道儀にて追尾
ケンコー PRO1D プロソフトン[A](W) | ニコン ニューソフトフォーカス |
上がケンコーとニコンのソフトフィルターの撮影画像ですが、ソフト効果はほぼ同じで、星像のボケ具合も同程度です。 二つの画像を並べて拡大しても、どちらの写真がどちらのソフトフィルターで撮影したのかわからないほどです。
次に、LEE社のポリエステルフィルターの効果を確認してみましょう。
下は、No1からNo5までフィルターを交換しながら撮影した星空写真です。
LEEフィルターは、レンズの前に取り付けたフィルターホルダーに固定し、比較撮影を行いました。
※撮影条件はケンコーやニコンのフィルターを使用して撮影した時と同じです。
LEE ソフトフィルター No1 | LEE ソフトフィルター No2 |
LEE ソフトフィルター No3 | LEE ソフトフィルター No4 |
LEE ソフトフィルター No5 | フィルター無し |
フィルターの比較写真をご覧いただくと、フィルターのナンバーが大きくなるに従って、ソフトフォーカス効果が強くなり、 輝星の周りのボケ量が大きくなっているのがわかります。
LEEフィルターで撮影した画像を、ケンコー、ニコンのフィルターで撮影した画像と比べてみると、 No4フィルターで、ほぼ同じソフトフォーカス効果が得られるようです。
輝星を使ったソフトフォーカス効果の比較
輝星のボケ具合を詳しく比較するため、オリオン座α星、ベテルギウスの部分だけトリミングした画像を並べました。
星像を拡大した画像を比べると、各フィルターのソフトフォーカス効果の違いがよくわかります。 輝星のにじみの大きさだけでなく、ソフト効果の大小によっても微恒星の写り具合に差が出ています。
今回、テストしたフィルターを、ソフトフォーカス効果の強い順から並べると、
LEE No.5 > ニコン ニューソフト = ケンコーPROソフトンA =>
LEE No.4 > LEE No.3 > LEE No.2 > LEE No.1
という結果になりました。
表現したい写真によって、最適な星のにじみの量は変わってきますので、 ソフトフォーカス効果の異なるフィルターを何種類か用意しておくと、撮影の幅が広がると思います。
雑感とまとめ
ケンコーやニコンのフィルターとLEEフィルターを比べてみると、 LEEフィルターはソフトフォーカス効果を選べるので便利ですが、ポリエステル製なので経年劣化にやや弱く、 フィルターはレンズ前面に取り付けたホルダーに固定するか、 もしくはレンズ後部に貼り付けて使用しなければなりません。
一方、ケンコーやニコンのフィルターはガラス製なので耐久性があり、フィルターはねじ込み式です。 フィルターを付けた後、レンズフードを使用できるので、外部からの迷光の心配も少なく、 安心して使用することができます。 ただ、レンズの前玉の形状(出目金レンズ)によっては、取り付けられないことがあります。
ソフトフィルターは、撮影者の好みによる部分が大きく、LEEソフトフィルターNo5でも足りないほど大きくぼかしたい方がいる一方、 ぼかし量は最小限に抑えたいと考える人もいます。
個人的には、輝星が写真の中で主張し過ぎない程度のぼかし量が好みなので、 天の川銀河を構図に入れるときは、LEE No2フィルター程度のソフト効果、 星座写真を撮るときには、ケンコーやニコンのソフト効果が適当だと考えています。
星空撮影を撮る方が増えるにつれ、撮影に便利なツールやソフトフィルターも注目されるようになりました。 新しいフィルターが見つかり次第、また追記していきたいと思います。
Kenko レンズフィルター PRO1D プロソフトン [A] (W)星空撮影用として人気の高い、ケンコー製のソフトフォーカスフィルター「PRO1D プロソフトン[A](W)」です。 ねじ込みフィルターですので、お持ちのレンズのフィルター径に合ったサイズを購入する必要があります。 レンズごとにフィルターを用意するとコストがかかるので、 私の場合は、ステップアップリングを介して、77ミリ径のフィルターを径の小さなレンズにも流用しています。 定価はそれなりにしますが、割引率が高いフィルターなので、アマゾン等では手頃な価格で手に入れられるソフトフィルターです。 星空撮影を楽しむなら、是非一度は使ってみたいフィルターだと思います。 |
Nikon ニューソフトフォーカスフィルター77mm
今回、撮影テストに用いたニコン製のニューソフトフォーカスフィルターです。 テスト結果の通り、ケンコーのPRO1 プロソフトンAとほぼ同じ結果のソフトフォーカス効果が得られます。 ニコン製ならではの信頼感がある製品ですが、ケンコー製に比べて高価なため、 手を出しにくいソフトフィルターです。 なお、フィルターが入っているプラスチックケースは、フィルター径ごとに枠の大きさが変わっており、 フィルターのガタツキがでないようになっていて、少し高級感を味わえる造りです。 |
LEE 角型ポリエステルレンズフィルター P-4 ソフトセット 100X100mm 5枚セットLEE社のソフトフォーカスフィルター5枚セットです。 今回、撮影テストに用いた、LEEのポリエステルソフトフォーカスフィルターNo1〜No5までセットになっています。 5枚セットのため1万円以上と高価ですが、ばら売りで買うよりも少々お得になっています。 LEE社のフィルターは、銀塩フィルムで撮影していた頃は、大型カメラ店に行けば容易に手に入れられたのですが、 最近販売している店が少なくなりました。 アマゾンでは常時販売しているようですが、価格変動が大きいので購入時は注意が必要と思います。 レンズに取り付けるホルダーは付属していませんので、別途用意する必要があります。 |