シグマ 105mm F1.4 DG HSM レビュー
シグマ 105mm F1.4 DG HSMは、シグマレンズの中で最高光学性能を与えられた「Artシリーズ」に属するレンズで、2018年6月に発売開始されました。
Artシリーズのレンズは、描写力が高く、星空や天体撮影用として天文ファンから注目されています。 今回、発売開始されたシグマ 105mm F1.4 DG HSMも、発表と同時に天体写真ファンの耳目を集めました。
シグマ105mm F1.4 DG HSMは、標準レンズ並みの明るさが魅力のレンズです。 この明るさは、淡く広がった星雲などの撮影に好適でしょう。
なお、同スペックのレンズとしては、2016年に登場した「ニコン AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED」があります。 シグマ 105mm F1.4 DG HSMの希望小売価格が22万円、上記ニコンレンズが24万円と、 シグマのレンズの方が若干安くなっています。
シグマ 105mm F1.4 DG HSMの概要
シグマ105mm F1.4 DG HSMは、開放F値がF1.4と、非常に明るい中望遠レンズです。 レンズには、5枚の特殊低分散レンズのほか、非球面レンズが1枚採用され、諸収差を極限まで減らす設計となっています。
箱からシグマ105mm F1.4 DG HSMレンズ本体を取り出したときにまず目に留まるのは、 直径10センチ程もある大きな第一レンズでしょう。
中望遠レンズとは思えない直径の大きな前玉レンズは、高い描写力を期待させてくれます。 レンズ前面には保護フィルターを取り付けることができますが、 フィルター径が105ミリもあるため、フィルターを取り付ける方は少ないのではないかと思います。
レンズ本体には、AFとMFの切り替えスイッチが設けられています(手ブレ補正には対応していません)。 商品には、レンズ本体の他に、ケース、かぶせ式フード、回転装置付きの三脚座が付属しています。 三脚座はレンズとカメラを支える十分な強度があり、星空を追尾撮影しても、ブレは発生しませんでした。
シグマ105mm F1.4 DG HSMは、開放F値が2.8前後で同焦点距離の他のレンズと比べ、レンズ本体の直径が大きく、全体的にずんぐりとした印象を受けます。 本体重量は約1600gと、F2.8クラスのレンズの3倍近くの重さがあります。
シグマ 105mm F1.4 DG HSMの対応マウントは、シグママウント、ニコンマウント、キヤノンマウント、ソニーEマウントです。 希望小売価格は22万円(税別)ですが、2019年1月時点での実勢価格は16万円前後となっています。
一般撮影に使用した印象
シグマ 105mm F1.4 DG HSMを装着したカメラのファインダーを覗いてまず感じるのは、視界の明るさです。 ファインダーの明るさは、暗い室内での撮影時や、天体撮影での構図確認時に大変便利です。
シグマ 105mm F1.4 DG HSMは、抜けが良く、単焦点らしい、コントラストの高い像を結んでくれます。 中望遠レンズの画角とボケ味は、ポートレート撮影にちょうどよく、被写体と自然な距離感で撮影を楽しむことができます。
レンズの収差が良好に補正されているためでしょう、撮影画像に色収差は感じられず、 開放から解像感の高い画像が得られます。 AFは正確ですが、開放F値での撮影では、ピント面が非常に浅いため、僅かな被写体の動きでピントを外すことがありました。
人物撮影に適したレンズですが、レンズ自体が大きく重いため、長時間、手持ちで撮影するには少々重く感じられます。 また、少し暗い室内で長時間撮影すると、疲れのためか、ブレた写真を量産してしまいました。 一般撮影用としては、手ブレ補正機能を設けてほしかったところです。
上記のように少々重く大きなレンズですが、他のレンズにはない魅力を持ったレンズですので、 ここぞという時に使いたい単焦点レンズだと感じました。
星空撮影での印象
シグマ 105mm F1.4 DG HSMと35ミリフルサイズデジタル一眼レフカメラを使用して、星空を撮影してみました。 まずは周辺減光の様子です。
左は絞り開放で撮影した画像、右は一段絞ってF2で撮影した画像、 その下はF2.8とF4に絞って撮影した画像です。 露出時間は、背景濃度が同じ程度になるように調整しています。 また、どれも周辺減光補正などの画像処理は施していません。 撮影には、ポータブル赤道儀SWAT-350を使用しました。
絞り開放で撮影 | 絞りF2で撮影 |
拡大画像へのリンク | 拡大画像へのリンク |
絞りF2.8で撮影 | 絞りF4で撮影 |
拡大画像へのリンク | 拡大画像へのリンク |
小さな画像では分かりにくいですが、左上の絞り開放の画像は、中央部は明るく、 周辺部はかなり暗くなっています。 これと比較すると、1段絞った右の画像は周辺減光が減っているのがわかります。
また、2段絞ると周辺減光は更に減少し、APS-Cセンサーサイズの範囲なら、ほぼフラットになります。 3段絞ると四隅を除いてフラットになりますが、2段絞った場合と比べて、 周辺減光の傾向はそれほど変わらないように感じました。
この結果から考えると、星空撮影では周辺減光が気になるので、少なくとも1段は絞って撮影した方が良さそうです。
なお、画像の右側が左側に比べて明るいのは、光害や夜空の明るさの差によるものです。
※リンク先の大きな画像もご覧下さい。
続いて、星像について見ていきましょう。 以下に、それぞれのF値に絞ったときのピクセル等倍画像を掲載します。
絞り開放で撮影 | 絞りF2で撮影 | 絞りF2.8で撮影 | 絞りF4で撮影 | |
中心像 | ||||
左上隅の星像 | ||||
右下隅の星像 |
中心像は、絞り開放時でも色収差の発生を感じられませんが、1段絞った画像と比べると、星像が若干大きく感じられます。 また、2段以上絞っても、中心星像はそれほど変わらない印象を受けます。
写野周辺の星像を見ると、絞り開放時には、コマ収差や非点収差などの影響で、 星がコマ状に変形しているのがわかります。この星像の収差は、絞りを1段絞ると少し小さくなり、 2段絞ると満足できる星像まで改善します。
さらに1段絞ってF4で撮影すると、コマ状の広がりはより減少し、シャープになりますが、 ここまで絞ると、明るいレンズを使用するメリットが感じられなくなります。
星空撮影でお勧めの絞り値
星空撮影では、F値を明るくするほど露光時間を短くできますが、 上記のテスト結果からわかるように、開放絞りに近づけるほど、周辺減光が大きくなり、 周辺部の星像は悪くなってしまいます。
今回、シグマ 105mmF1.4 DG HSMレンズで絞り値を変更しながらテスト撮影してみたところ、 絞りF2.5が星像と明るさのバランスが良いと感じました。
上の画像は、シグマ 105mm F1.4 DG HSMレンズを使い、絞りをF2.5に設定して撮影したオリオン座の写真です。 下は、各部分のピクセル等倍画像ですが、周辺減光もそれほど目立たず、周辺部の星像も許容範囲内です。
撮影場所の星空環境やカメラマンの目的にもよりますが、シグマ 105mm F1.4 DG HSMレンズで星空や天体を撮影する際は、 一度、絞り値2.5で撮影してみてはいかがでしょう。
シグマ 135mm F1.8 DG HSMとの比較
シグマ 105mm F1.4 DG HSMを購入する際に、よく比較対象に挙げられるのが、シグマ135mm F1.8 DG HSMです。 135mmは、105mmの発売開始の1年ほど前に発売開始され、天体写真ファンからの評価が高いレンズです。
105mmと135mmの外観を並べてみると、レンズの直径、長さ共に、135mmの方が一回り小さいことがわかります。 重さも135mmの方が500gほど軽く、持ったときの重さもかなり異なります。 また、135mmは三脚座がない分コンパクトで、小さなカメラバックにも入れやすいと思います。
星像については、ユーザーの方から、「135mmの方が星像が良好」という評価をうかがっていましたが、 私がテストした限りでは、105mmの方が好印象でした。 色収差の点では、135ミリの方が若干少ないと感じましたが、周辺像は、105ミリの方が星像の崩れが少ないように感じました。 但し、これはレンズの個体差もあるかもしれません。
また、105ミリに比べると、135ミリはレンズに三脚台座が付いていないため、 カメラ本体を赤道儀に固定すると、レンズ側がかなり重くなり、バランスが悪くなります。 135ミリを天体撮影に使用する場合は、鏡筒バンドなどで、レンズを固定したいと思いました。
105mmと135mmを価格で比べると、希望小売価格で約5万円、実売価格で約3万円の差があります。 ポートレート撮影用途なら105ミリの方が使いやすいと思いますが、星の撮影なら、この程度の画角の違いは、 それほど影響しません。 システム全体の大きさや重さを考えて選択するのが良いのではないでしょうか。
まとめ
シグマ 105mm F1.4 DG HSMは、開放F値の明るさが魅力のレンズで、大口径の第一レンズの存在感が大きいレンズです。
ファインダー像は明るく、ライブビューで映し出される星の数も多いため、 星の位置を参考にして構図を合わせることができます。 デジカメの最高感度と開放絞りを組み合わせれば、 ほんの数秒で星々が写るので、試写して構図を最終確認することも容易です。
贅沢なレンズ設計のため、ボディ本体は大きく、重量も1.6キロ以上あります。フルサイズデジタル一眼レフカメラと組み合わせるとかなりの重量になるので、 星空撮影の際には、強度の高いポータブル赤道儀に搭載した方が安心でしょう。
レンズの中心像は一段絞ればシャープで、周辺像もF2.5まで絞れば、ほぼ満足できる星像になります。 カメラの感度をISO3200に設定して、F2.5で撮影すれば、1分強の露出時間で適正露光が得られるので、 少しの晴れ間でも星空撮影を楽しめそうです。
シグマ 105mm F1.4 DG HSMレンズの全体の印象としては、重さと価格以外は特に大きなマイナス点は感じられず、 シグマArtシリーズを代表する良いレンズだと感じました。 彗星や淡く広がった星雲の撮影など、レンズの明るさを生かせるシチュエーションで活躍するレンズだと思います。
シグマ Art 105mm F1.4 DG HSM(キヤノン用)シグマ 105mm F1.4 DG HSMは、2018年6月に発売開始された、シグマのArtラインに属するフルサイズ対応の中望遠レンズです。 開放F値がF1.4と非常に明るいので、淡く広がった星雲の撮影に適したレンズです。 105ミリという画角は、思った以上に広く、オリオン座の主要な星々がすっぽりと構図に収まります。 非常に淡い分子雲や、尾が伸びた彗星の撮影時にも重宝するレンズと思います。 レンズ本体は重く、大きいので、ポータブル赤道儀を使用して長時間露光する場合は、 強度がある架台に載せる方が無難です。 高価なレンズですが、星空撮影に適した中望遠レンズの一つだと思います。 |
シグマ 105mm F1.4 DG HSMのスペック
名称 | シグマ 105mm F1.4 DG HSM |
レンズ構成 | 12群17枚 |
絞り羽枚数 | 9枚(円形絞り) |
最小絞り | F16 |
最短撮影距離 | 100cm |
最大径×長さ | φ115.9mm×131.5mm |
重量 | 約1,645g |
希望小売価格 | 220,000円(税別) |