みなみじゅうじ座 Crux
みなみじゅうじ座は、南十字星の呼び名でよく知られている星座です。 赤緯がマイナス60度と低いため、日本の本州では地平線の下になってしまい、観察することができません。 みなみじゅうじ座は全天一小さな星座で、南天星座の中で最も美しい星座として知られています。
南十字星という呼び名から、みなみじゅうじ座は一つの星と思われがちですが、 実際には明るい4個の星が作り出す十字架が、みなみじゅうじ座を形作っています。 実際に4つの星を見ると、3つの星は1等級と明るいのですが、 右側の星は2.8等星と他と比べて暗くなっているのが肉眼でもよくわかります。
みなみじゅうじ座の星々の名前は右上画像のようになっています。 α星は、星座の一番南側で輝くアクルックスです。 β星は左側のベクルックス。γ星はガクルックスで、右側の少し暗い星はδ星となっています。 なお、ガクルックスは一番北側に位置しているので、鹿児島県からでも地平線もしくは水平線すれすれに見ることができます。
沖縄の石垣島まで出かければ、水平線上に浮かぶ、みなみじゅうじ座の全景を見ることができますが、 霞の影響もあってなかなかクリアには見ることが出来ません。 条件良く南十字星を見るためには、南半球まで出かけた方が良いでしょう。 ニュージーランドやオーストラリアでは、天頂高く上るみなみじゅうじ座をゆっくりと観察することが出来ます。
みなみじゅうじ座と神話
みなみじゅうじ座は、北半球から見えない南天の星座のため、ギリシア神話では語られていません。 元々はケンタウルス座の一部とされていたようで、プトレマイオス以降に星座の整理に着手したヨハン・バイヤーも、 このみなみじゅうじ座の星々をケンタウルス座の一つとして星図に表していました。
結局のところ、最初にみなみじゅうじ座の星の並びを一つの星座として表したのは誰かよくわかっていません。 ある星の解説書に寄れば、フランスの天文学者ロワーエが最初に制定したと書かれていますが、 イギリスのモリノーが先だったという説もあります。 最終的には、フランスの天文学者ラカイユが作った「南天星座」にまとめられ、広く知られるようになります。
誰が最初にみなみじゅうじ座を独立した星座として捕らえたにせよ、この星の並びは当時の航海者達に一足先に注目されていたようです。 みなみじゅうじ座の長い方の辺を、約4.5倍延長したところが天の南極です。 北半球には北を示す北極星がありますが、南半球には南極星という星はありませんので、 このみなみじゅうじ座が南を示す重要な役割を担います。 荒波を行く航海者達にとっては、南十字星が作り出す十字架が神の加護のように見えていたのかもしれません。
みなみじゅうじ座と日本
聖徳太子が現存していた飛鳥時代には、南十字星が日本から見えたという説があります。 地球はコマの首振り運動のような自転(歳差運動)をしているため、だんだんと星が見える場所がずれてきます。 この動きはわずかな量ですが、数百年レベルでは1度以上に及びます。 このことを考えると、古代の日本では、南十字星が地平線すれすれに見えていたかもしれません。
南十字星という呼び名が広く一般に普及したのは、大日本帝国時代のようです。 この頃の日本は東南アジアに領土を広げていた時代で、 その宣伝の一つとして、南の夜空で輝く南十字星の名前を使っていたようです。
南十字星の名前が多くの歌でも登場しているので、日本人にとってみなみじゅうじ座は一つの憧れのようになっています。 日本南端に位置する波照間島や小笠原諸島では、この南十字星を一目見ようとする観光客が多く訪れます。 ただやはり地平線ギリギリなので、なかなか条件良く見ることができません。 私も波照間島まで南十字星を見に行きましたが、はっきりと見えたのは2回目に訪れたときでした。
みなみじゅうじ座と主な星
アクルックス
みなみじゅうじ座のα星がアクルックスです。 みなみじゅうじ座の学名「Crux」に"a"を付けた呼び名で、 他の星座の一等星と比べると、少々味わいに欠ける呼称です。 明るさは0.8等級で、全天で最も南に位置する一等星です。
ベクルックス
みなみじゅうじ座のβ星で、明るさは1.2等級です。 命名法はアクルックスと同じく、星座名にβの呼び名を追加した形になっています。 ミモザとも呼ばれている変光星で、1.2〜1.3等星に明るさを変えますが、変化の度合いが小さいために肉眼では変動がよくわかりません。
ガクルックス
みなみじゅうじ座のγ星です。 1.6等星の赤い星で、写真に撮るとオレンジ色に写ります。 みなみじゅうじ座の中で最も北に位置しているので、鹿児島県の南端でもこの星を確認することが出来ます。
双眼鏡や天体望遠鏡で見るみなみじゅうじ座
コールサック(石炭袋)
みなみじゅうじ座は、天の川銀河の中で輝いているため、星座の周りにはたくさんの微恒星が見えます。 しかし星座をよく見ると、十字架のすぐ左下の部分だけ暗くなっているのがわかります。 これがコールサック(石炭袋)と呼ばれている暗黒帯です。 天の川銀河とのコントラストが美しい暗黒帯です。 低倍率の双眼鏡で見ると、その様子がよりよくわかります。
エータカリーナ星雲
エータカリーナ星雲は、りゅうこつ座に属する大きな星雲ですが、 みなみじゅうじ座のすぐ右隣にあるので、この星座から探した方が分かりやすい天体です。 肉眼でも星が集まっているように見えていて、双眼鏡で見ると白い固まりのように見えます。 天体望遠鏡を使うと、星雲の様子が波をうったように見えて美しい天体です。
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